劇場公開日 2018年2月2日

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「自分の中の「人でなし」との戦い」RAW 少女のめざめ hhelibeさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5自分の中の「人でなし」との戦い

2018年2月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

RAW @ TOHOシネマズ六本木ヒルズ

上映中、特に後半は極度の緊張状態。
アメリカや日本の映画は残虐シーンの前に「来るぞ来るぞ…」って演出があるけど、ヨーロッパ映画はフラットな状態から唐突にとんでもないシーンが来る。
だから気持ちが休まる時がなくて、上映後はフラフラに。そして全く食欲が湧かない!

「少女が大人になる過程で、人の肉が食いたい衝動が抑えられなくなる」っていう設定だけでも充分キツいのに、彼女が入る獣医学校がめちゃくちゃクレイジー。
クレイジーに感化されて、少女がどんどんクレイジーになって、もう何がなんだか……
それとももしかして、ヨーロッパの学校ってこれが普通なの……?

「映画祭では失神者続出、客席にエチケット袋が用意された」みたいな話も知った上で観に行ったんだけど、なんでこんな映画をわざわざ六本木まで1800円出して観てるんだろう……みたいな気持ちに。

なんだけど、観てしばらく経つと、違った感想も湧いてきた。

学校の食堂で、彼女は「猿もレイプされれば人間と同じように深く傷つくはず」と言っていた。
普通、人は「人」と「人以外のもの」の間に強力な線を引く。
だけど彼女は違う。
人、猿、犬、馬、牛、豚、鳥
彼女の中でこれらはシームレスに繋がっていて、「肉」というものを体内に入れたが最後、そのまま人肉までたどり着いてしまう。
「血液型による性格占い」なんてものに信憑性があるかは分からないが、思想と体質もどこかで結びついているものなんだろう。

でも、カマキリは交尾後にメスがオスを食べるというが、人間は人を食べると「人でなし」になる。
彼女の「大人への階段」は、自分の中にある「人でなし」を自覚しつつ、世間と折り合いをつけて生きていくことだ。

そんな中で、少女は恋をする。
あの男に恋をして(もしかしたら初恋かもしれない)、彼と愛し合いたくて、と同時に食べたくてしょうがなくなる。
そして彼との初めてのセックス。
その興奮と快感の中で、食べたい気持ちが抑えられなくて、でも愛する人を傷つけたくない…という葛藤の果てに、彼女は自分の腕を千切れるほど強く噛む。
なんて切ない行為だろう。

冒頭のシーンの女性は、姉妹の母親が若かった頃だろうか。
ジュスティーヌの後日譚だとは思いたくない。

hhelibe