「約束された王道の甘さ。だがそれが良い。」今夜、ロマンス劇場で つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
約束された王道の甘さ。だがそれが良い。
ストーリーとか全く違うけど「ニューシネマパラダイス」のような映画愛を感じる作品だったね。
映画ファンの夢の一部を切り取ったようなファンタジーロマンスコメディでとても楽しめた。
映画の中の姫が、自分が作品であることや外の世界を認識しているという設定が良かったよね。そのおかげで出て来てから無駄な驚きシーンなどに時間を使うことなく物語を進める事ができた。
振り返ってみると、姫とケンジがお互いに想いあったためにスクリーンから飛び出す奇跡が起きたわけで、必要な設定だったんだけどね。
お互いに好いているのに気持ちを伝えられない、実に日本人的な初々しいロマンスで清々しさすらあるよね。
姫は秘密のこともあり、ワガママを言うことでしかケンジの気持ちを確認したり自分の愛を伝える事が出来ない。
ケンジに対して「お前は私のしもべだ」と宣言するシーンは、姫なりの抱擁なんだよな。彼女には好きな男をとどめておく方法がその時はそれしかなかった。
一方のケンジも、姫のワガママをきくことで愛の確認をしようとした。自分の気持ちも含めてね。奥手な男と言われているけど、突然現れた姫に対して結構グイグイいってたと思うけどな。姫の要求はもっと上だったってことなのかもしれん。
かといって触れられないし難しいよね。さすがお転婆姫だわ、無理難題をおっしゃる。
それぞれのままならない、不思議で歪な愛の確認行為の最後は「たまには僕のワガママもきいてください」という、行為の逆転現象でしめたのも良かったよね。
現代パートの冒頭で、老いたケンジが転んでも助けない孫の話が出る。
後に発覚する姫が人に触れられない秘密と合わせて考えると、ケンジと姫の未来はある意味作品冒頭で確定していて、あとはどのように二人は成就するのかだけの、ベタベタの甘々展開しか残されていないのも潔くて良かったね。
何度か露骨に泣かせにきてるんだけど、ベタベタなのに冷めさせず、涙を誘えるのはすごいと思った。確定したベタさのおかげなのかもね。
約束されたエンディングの更に先に、姫が望んだ色を与えてケンジの脚本の世界に入っていくラストは夢のあるファンタジーのハッピーエンディングとして最高だったよね。
誰からも忘れ去られた「お転婆姫と三獣士」だとしても、ケンジの脚本を介して、その中で二人は永遠に生きていけるのかなと思うと、豆抜きあんこくらいの甘さがあって、それがまた良かった。
あとは、北村一輝演じる龍之介が雰囲気たっぷりで最高だったね。「蒲田行進曲」を観てるような、実際には見たことない時代のスタジオと俳優だけど、妙にそれらしい時代感があった。
嫌な奴かと思いきや、なかなか良いことを言う人で、「さすが龍之介さん、勉強になります!」って気になったよね。