「1つのラブストーリーと2つのラブレター」今夜、ロマンス劇場で ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
1つのラブストーリーと2つのラブレター
鑑賞前にあった期待は2つだ。ひとつはスクリーンから飛び出してきたお姫様と現実世界にいる主人公との身分違いのラブストーリーとしての面白さ。もうひとつはクラシック映画に対するラブレターとしての面白さである。
前者の期待には応えてくれた。最初こそ、誰彼構わず叩きまくるヒロインに失笑したが、次第にこのお転婆っぷりとチャーミングさのバランスが取れてくる。ヒロイン自身も自分が映画の中の存在であることを理解しているという設定に対して、迎える後半は意外にも予想を裏切る形で話を広げる。冒頭で抱いた何故物語が回想劇であるのか?という疑問に対する理由付けが見事に示され、なんとも心地良いラストシーンに着地する。
だが、後者の期待については、テーマに対しての演出が今一歩足りなかった気がしてならない。この映画のヒロインが何故モノクロなのか?ヒロインが不在になったフィルム世界は破綻しないのか?雨に濡れた部分や、涙の跡だけが白黒になる、単調なフィルム世界への未練や時代と共に変化する現実世界とのギャップはヒロインの存在の不確かさを示し、主人公との身分違い、もとい、“次元違い”を示す絶好の演出に繋げられたように思えるのだが…。この点はどうしても『カラー・オブ・ハート』との比較が避けられない。
しかし、消えゆく映画の物悲しさを語る映写技師の台詞を聞けば、本作には映画が娯楽の中心であった時代へのラブレターの意味も込められていたことが見て取れる。それでいて、ラストシーンは銀幕が再び輝き出すような映画の未来へ向けたラブレターのようにも思えてしまう。本作の公開は2018年であったが、コロナ禍で劇場の休館や上映方式にも変化が起きそうな今、この作品を見る意義は十分にある。