「カラフルで温もりに溢れた、映画と恋を」今夜、ロマンス劇場で 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
カラフルで温もりに溢れた、映画と恋を
綾瀬はるかと坂口健太郎の美女&イケメン共演のラブストーリーで、フジテレビ・ムービー。
ボロクソ叩く材料が揃っているが、しかしこれは良かった!
邦画良質のロマンティック・ファンタジー。
様々な感情が溢れ出てきた。
入院中の老人が、若き日の事を思い出す…。
映画監督を目指す青年・健司は、助監督として撮影所で毎日悪戦苦闘。
そんな彼の楽しみは、馴染みの映画館“ロマンス劇場”で戦前に作られたモノクロ映画『お転婆姫と三獣士』を観る事。劇中の姫、美雪に憧れ、恋をしていた。
ある夜、不思議な事が起きる。いつものように映画を見ていたら、映画の中の世界から美雪がこちらの世界に飛び出して来て…!
映画ファンならすぐ察しが付く通り、この設定は『キートンの探偵学入門』『カイロの紫のバラ』『ラスト・アクション・ヒーロー』などなど。ロマンティック・ファンタジーなので、特に『カイロの紫のバラ』を彷彿させる。
映画ファンなら誰もがある筈。映画の中の世界に憧れたり、映画の中の人物を好きになったり…。
夢だけど、映画の中の人物と至福のひと時を。甘いひと時を。
そんな夢を叶えさせてくれる『カイロの紫のバラ』や本作は、映画ファンの心を掴むに充分。
…でも、健司の場合、そんなんじゃなかった!
周囲に知られたら、大変! 自分のオンボロアパートに住まわせるのだが…
とにかくこの美雪姫、メチャメチャ気が強いじゃじゃ馬。
しかも、「お前」「しもべ」呼ばわりで、あれこれこき使われる。
トラブル続出、振り回される毎日…。
前半はお転婆美雪とドジ健司のドタバタ・コメディで、少々ベタ。
北村一輝演じる往年の銀幕スターの描写も典型的。往年の銀幕スターって、本当にあんな感じだったのかな…?
ある日、健司ら助監督に監督デビューの機会が。
健司は、美雪との事を題材にした脚本を書く。
一緒に過ごす内に、次第に二人の心が色付いていく…。
が、美雪にはある秘密が。それは、触れられると消えてしまう…。
ドタバタ・コメディから切ないラブストーリーへ。そして、意外性のある結末へ…。
劇中の健司さながら、綾瀬はるかの魅力にうっとり。お転婆な面も儚い面もキュート。品のある美しさも。
坂口健太郎もピュアな青年像もハマっている。
映画会社の社長令嬢の本田翼の役回りも案外良かったが、他キャスト陣で印象残ったのは、やはり先日他界した加藤剛だろう。
敢えて役柄は伏せるが、演じた役柄と加藤剛本人の最期が何だかダブって…。
本作の最大の醍醐味の一つは、“映画”だろう。
姫の生活にうんざりのヒロイン。彼女が着こなすファッションの数々…。これらは言うまでもなく、『ローマの休日』で、オードリー・ヘプバーン。
“触れられないロマンス”は『シザーハンズ』を思い起こさせる。
そんな二人がガラス越しに口づけを。邦画往年の恋愛映画の名作『また逢う日まで』へのオマージュ。
かの名作の名シーンを再現するなんて嬉しいが、今の若い人たち、知ってるのかな??
映画全盛期の時代が主な舞台なので、撮影所の雰囲気とか堪らなく“あの時代”を醸し出す。
ポスターや小道具など、こっちが映画の中の世界に入って、じっくり見物したいほど。
美雪が活躍するモノクロ映画『お転婆姫と三獣士』のチープで古ぼけた作りも上々。
北村一輝演じる銀幕スターの“ハンサムガイシリーズ”など、劇中映画が大衆娯楽映画なのもいい。
って言うか、これらの映画、本当に見てみたいぞ(笑)
さて、健司が書いた脚本の結末は? 本作の結末は?
ネタバレチェックを付けるので触れるが、
終盤見舞いに現れた“孫”は、実は美雪。
二人は、触れ合わないで、共に歩んでいたのだ。
病院のあるシーンで助けてやる事も出来ず陰口叩かれても、仕方ないのだ。触れられないのだから。
遂に二人に別れの時が。健司は静かに息を引き取る。美雪は最期の最期に健司に触れ、消える…。
切なく悲しくも、美しく幸せな結末で、とてもいい。
でも、こんな結末でも良かったと思う。
あのシーンで、健司は美雪に触れ、美雪は消える。
消える運命にあるのなら、愛する人に触れられて、消えたい…。
健司は社長令嬢と結婚。幸せな人生を送った。
すでに妻は他界し、健司も病床で最期の時を待つ。
美雪との恋や自分の人生の思い出を綴った未完の脚本を完成させて、健司も旅立つ…。
本作はどんな形になっても素敵なハッピーエンドになっていたと思う。
そんな幾つもある中から、美雪と健司が二人で選んだハッピーエンド…。
映画は観客を楽しませてくれる。時には、自分の人生を決定付け、影響すら与えてくれる。
それは、映画にとっても同じ。観客が、私を(映画を)見つけてくれる。
語り継がれる名作や今も尚多くの人に愛される映画がある一方、埋もれ、忘れ去られた映画も山ほど。
そんな中から…。
見た映画全てを覚えてるなんて、到底不可能。(タランティーノは覚えてるらしいが…)
忘れた映画、覚えてない映画も多い。
例え忘れても、その時見た感情は本物だ。
それを忘れない為に、残す為に、思い出として、駄文であっても短文であっても支離滅裂であっても、こうやって映画レビューを書き続けている。
映画との出会いも、人との出会いも、一期一会。
映画を愛し、愛する人に出会い…
その世界は輝き、カラフルな温もりに満ち溢れている。