「どれだけの大義名分を振りかざそうとも、目の前のひとりの人間を愛せないのであれば。」ローズの秘密の頁(ページ) きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
どれだけの大義名分を振りかざそうとも、目の前のひとりの人間を愛せないのであれば。
この映画は、関係性が複雑だ。
編み目のように、縦に横に、鎖に縛られた村社会。
イングランドとアイルランド。
禁酒派とアルコールを求める人々。
アイルランドのカトリックとプロテスタントの英国国教会。
英国軍とドイツ軍。
自警団の監視と村人。
そして
男と女と。
厳格な禁酒ホテルで働くローズと、酒屋のマイケル・マクナルティ。
「男の目を見る事が許されるのはその妻だけだ」という、ここまでの因習の村で、自分の感性と道徳律に正直に、人間対人間で相手に出会おうとすると、
あの時代には、そしてあの地域では、個人は、そして女は、どんな目に遭わされてしまったのか。
その有り様を、美しいアイルランドの景色の中で見つめる本作。
アイルランド出身のジム・シャリダンが、同郷の俳優たちを使って自らのふるさとを描いている。
二人が語らう森のシーンが佳い。
水や森がかくも清らかで、鳥の声がみずみずしく聞こえる。
その輝く自然のように、
大空のすじ雲や、遠浅の浜の静かに寄する波のように、
人間たちも、あのように美しくありたいと願う。
しかし、
たくさんの男たちが、ローズを取り囲み、責め、幽閉し、
貞操を探り、“愛国心”を試し、
ローズという女の処遇について、本人の心などお構いなしに指図し、処断し、「男社会を守るために」、ローズに猿ぐつわを嵌めて診断書を発行するのです。
監督は身内贔屓をしなかった。
偉いです。
暖かみと同時にふるさとを真っ直ぐに見て、告発する目を有している。
葬られてきた存在 =
「女」を象徴するルーニー・マーラの、壊れてしまいそうな佇まいに、息を止めて見入りました。
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メモ
「ヨブ記」の、旧約聖書のページに、その余白に、ローズは想いをしたためる。
「ヨブ記」は、短編だけれど、壮絶なひとりの人の苦難の物語。
友人たちはヨブを取り囲んで、
「君に与えられた不幸と災難は君自身に問題があったからだ」と、懸命になって、そして親身になって彼にアドバイスをする。
しかしヨブは、絶対に、絶対に、絶対に、納得をしない・・という魂の格闘の物語。