「自由の意味を履き違えた傍迷惑な老夫婦のロードムービー」ロング,ロングバケーション 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
自由の意味を履き違えた傍迷惑な老夫婦のロードムービー
ドナルド・サザーランド演じる夫はアルツハイマー型認知症を発症しているし、ヘレン・ミレン演じる妻は全身に癌が生き渡ったような状態。夫婦が離れ離れになってしまう前に、二人だけの最後の旅に出る。それは悪いことではない。思い出の場所、そしてヘミングウェイの家を目指してRV車を走らせる旅に、夫婦が連れ添った長い月日が重なっていくというのは、まぁありがちではあるものの、ドラマティックで見ごたえも感じられるところである。
しかし、話が進めば進むほどになんだか雲行きが怪しくなってくる。というか、そもそも初めから様子はおかしかったのだ。ヘレン・ミレン演じる女性は、口が達者で少々気が強そうだが、小股が切れ上がって威勢がいい女性だと好意的に解釈しようと思えば出来る範疇にいたのが、物語が進むごとにその範疇をはみ出してしまう。もう途中からはこの夫婦がただの傍迷惑な老人にしか見えなくなってくるから悲しい。いくらアルツハイマーでも、いくら末期癌だとしても、だからって好き勝手が許されるわけではないし、それを「自由」だなんて思わないでいただきたい。
いくらサザーランドとミレンの魅力と演技力をもってしても、この夫婦のことを(特に妻エラのことを)好意的に見ることはできなくなっていた。行く先々で繰り返すとても身勝手な行動の数々。老人ホームや病院や、そこで働く善良な人々に対する態度。彼らに無理強いをして従わせたり、思い通りでないと暴言を吐いたりとあまりに感情的かつ自分勝手。そもそも実子達に対しても迷惑しかかけていないし、最後の最後のあの行為も、いやいや周りからしたら本当に迷惑なだけである。
アルツハイマーで、しかし時折真面な夫が一瞬だけ戻ってくるときの喜びと悲哀であったりと、ドラマ性は十分にあるけれども、それを上回る不快感。彼ら夫婦の気持ちが分からないではないが、せめて自分が逝くときは、なるべく人様に迷惑をかけずに逝きたいものだと心底思った次第だった。
この物語を見て、彼らの行動を、美しいだの、ロマンティックだの、ましてや愛だのと言えるほど、私は浅はかではないつもりだ。