「ある黒人女性歌手の切なく哀しい実録映画」ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー HALU6700さんの映画レビュー(感想・評価)
ある黒人女性歌手の切なく哀しい実録映画
2019年の映画初めとして、TOHOシネマズ二条にて本作品を鑑賞。
正直なところ、私は、バブル世代ど真ん中に育った人間ではありますが、そんなにも、特段に、ホイットニー・ヒューストンの大ファンだったという訳ではありません。
ですが、そんな私でも、1985年、デビューアルバム『そよ風の贈りもの』からシングルカットされた7曲が立て続けに全米シングルチャート1位に輝くといった快挙を達成。
その後、1991年のスーパーボウルでの「星条旗を永遠なれ」の国歌斉唱の大役を担い、1992年には、ヒロイン役として大抜擢され出演した映画『ボディガード』の成功に至るまでは、何となくですが、よく憶えています。
このケビン・コスナーと共演した映画『ボディガード』により、女性シンガーとして、また女優としても、彼女の名声はまさに頂点を極めたのでしたが、その劇中歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」も、その当時、映画とともに世界中で大ヒットを記録し、全米シングルチャート14週連続で1位を獲得。映画のサウンドトラック盤も、4.200万枚を売り上げる爆発的ヒットを記録したそうですね。
ちょうど、この絶頂期の1989年に出会ったボビー・ブラウンとも、1992年に結婚。そして、1993年には長女ボビー・クリスティーナ・ブラウンを授かるなど、公私ともに幸せの最高潮にあった頃までは記憶していましたが、その後の彼女の凋落ぶりについては全く知らなかったので、2012年2月に、わずか48歳で不慮の死を遂げた時には、まさに、青天の霹靂の如く、信じ難い気持ちが去来したものでした。
今回のドキュメンタリー映画化に際しては、「ある黒人女性歌手の切なく哀しい実録映画」とでも呼んで良いほど、丁寧に、そして嘘偽りを排したフェアに作られた印象がするドキュメンタリー映画でしたので、そう言った意味合いでは、感動的なストーリーにするべく、部分的に意図的な創作・脚色がなされている、あのQueenのフレディ・マーキュリーの半生を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』の様な感動的な音楽映画と同じ様に思って鑑賞すると、かなり肩透かしを喰らうかと思います。
どちらかと言うと、『ボヘミアン・ラプソディ』よりも、昨年末に公開された『エリック・クラプトン~12小節の人生~』というミュージシャンのエリック・クラプトンの独白によるドキュメンタリー映画の方が、より近いのかも知れないですね。
エリック・クラプトンも、(あくまでもドキュメンタリー映画で知った限りではあるのですが)、ホイットニー・ヒューストンと同様に、薬物中毒やアルコール依存症で悩まされた半生だった様ですが、彼とホイットニー・ヒューストンとが、薬物中毒による生死を分けた大きな違いは、エリック・クラプトンの場合には、恋多き男としても有名で、数々の女性遍歴を繰り返す事により、あくまでも自分はミュージシャンであって私生活は別と切り分けて、自由気儘に、自分の我を通す事も出来たのですが、ホイットニー・ヒューストンの場合には、幼少期の苦い経験からも、自分が築いてきた家庭を大切にしていきたいという気持ちが強過ぎて身動きが取れなくなってしまい、良妻賢母といった姿を理想の家庭像とすべく、行き場のない気持ちをドラッグで解消するといった悪循環が断ち切れなかったのが大きかったのかも知れないですね。
また、母シシー・ヒューストンをはじめ従姉妹のディオンヌ・ワーウィックやディー・ディー・ワーウィックなど、錚々たる芸能一家に育ったホイットニー・ヒューストンの家族、友人、関係者たちのインタビューと、そして、プライベートを含む膨大なホーム・ビデオや貴重なアーカイブで紡がれていく秘蔵映像の数々とを中心に構成された、今回のこのドキュメンタリー映画では、本国アメリカでは有名だったらしいホイットニー・ヒューストンの薬物中毒以外にも、彼女自身のセクシャリティな問題や、有名歌手だった親類による性的虐待といった新事実にまで踏み込んでいる点では、まさに、圧巻のひと言に尽きましたね。
これまで巷間では、数々の問題を起こしていた、ボビー・ブラウンのみがダメ夫と言われていた様ですが、彼と出会う前からホイットニーを取り巻く親兄弟や親類も、既に、ちょっとおかしかったと言う事がこのドキュメンタリー映画で改めてその真実が分かりましたね。
そしてまた、彼女の歌を、このドキュメンタリー映画を観た後に聴くとまた違ったような曲に聴こえてくるかも知れないですね。
特に、「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」の最後の一節。
あなたが夢見た場所が
さびしい場所になってしまっていたら
愛の中にある自分の強さを見つけ出していて
というフレーズなどは、彼女の心の中からの叫び声みたいにも思えて来るかも知れないですね。
トップ・オブ・トップに立った者だけが知る孤独。
白人達からの賞賛と、そして同胞たる黒人達からのバッシング。
夢見た場所に辿り着いた彼女が見たものは、幼い頃から思い描いてきた素晴らしい栄光の座や、良妻賢母の家庭像などとは大きくかけ離れた世界だったのかも知れないですね。
私的な評価と致しましては、
この映画は、音楽映画としては、エンタメ性もなく、決して高揚感が溢れる感動的な映画でもない点からも失格の烙印を押される様な作品かもしれないですが、実録もの映画としては、当人不在の「死人に口無し」状態の映画ではありますが、エリック・クラプトンの伝記映画のように本人の独白だと言い訳がましくも聞こえなくもない事からすれば、ホイットニー・ヒューストンのとても赤裸々な部分まで突っ込んでいる点からも、48歳で幕を閉じるに至った不慮の死までの人生を描くのに、非常に良く出来たドキュメンタリー映画だと思いましたので、五つ星評価的には、★★★★の四つ星評価の高評価も相応しい作品かと思いました次第です。
※また、同じ実録もの映画でも『エリック・クラプトン~12小節の人生~』よりも、その当時の時々の時代背景や風俗を代表するCM映像やニュース素材を盛り込んで工夫してあるので、その時代に生きた人達には、かなり分かり易いかとは思いましたので、多少その分も加点しております。