「チェコの一分(いちぶん)」ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
チェコの一分(いちぶん)
1942年のある夜明け、チェコの田舎町。
イギリスに亡命したチェコ政府から7人のパラシュート隊員が送り込まれた。
彼らの使命は、ナチス政権下で地下に潜ったチェコ・レジスタンスと協力し、ナチス・ナンバー3・ナチス親衛隊ラインハルト・ハイドリヒ大将を暗殺すること。
直接の暗殺任務は、ヨゼフ・ガブチーク(キリアン・マーフィ)とヤン・クビシュ(ジェイミー・ドーナン)が担う。
まずは、ハイドリヒの日々の行動を調べ上げ、最も適切な場所と時間を探ること。
しかし、レジスタンス組織の中にも、暗殺後の報復を恐れて、二の足を踏む者もいる・・・
というところから始まる物語で、1970年代にルイス・ギルバート監督『暁の7人』で描かれたのと同じ題材。
前回はアメリカ資本だったが、今回は本国チェコ主導でイギリス・フランスとの合作。
監督のショーン・エリスをはじめ主要キャストもイギリス人で英語発声ではあるが、ここに描かれたのは「チェコの一分(いちぶん)」。
映画冒頭で簡単に字幕のみで語られるが、1940年にナチス・ドイツに侵攻されたチェコは無抵抗でナチス政権に下ってしまう。
その際、チェコ政府はイギリスへ亡命して亡命政府を建てるが、チェコは世界から親ナチスとみられてしまう。
そして、1942年の時点では、ナチスの懐柔製作もあり、国民の多くはナチス政権下でよし、といった状況になっている。
ここいらあたり、ヨーロッパ史では知っていて当然の事柄なのかもしれないが、あまりに簡単に説明されるだけなので、ここんところがわかっているかどうかで、ハイドリヒ暗殺を実行するか・しないかを逡巡するレジスタンスたちのジレンマを感じる度合いが異なってくる。
個人的には、もう少し市民の描写などで、ナチス政権下でもよし、となりつつあるのを描いてほしかったところ。
現状は戦時下・ナチス政権下であっても、どうにか生活できる、生き延びることができる。
ただし、それは、チェコという国の、チェコ国民なのか・・・
しかし、ハイドリヒ暗殺などという究極的な抵抗を行えば、無辜の生命が脅かされることも目に見えてる。
チェコ国民としての信念を捨てるかどうかの決断。
結果として、犠牲は多くとも、チェコの一分(いちぶん)は守りとおす、というもの。
そんな中で進むハイドリッヒ暗殺計画。
ヒリヒリするような緊迫感である。
ただし、実行に至るまでのサスペンスは、さらに増すことができたようにも思う。
ハイドリヒの日常の監視などは意外にあっさりとしている。
また、女性レジスタンスとの遠慮がちなロマンスもある(個人的にはロマンスがある方が好きなのだが)。
映画の見どころは暗殺シーンというよりも、その後。
むしろ、暗殺後に力点が置かれている。
失敗したかにみえた暗殺。
ナチスによる実行犯のあぶり出し。
レジスタンス仲間の裏切りと、ナチスの執拗な拷問。
最後の最後まで続く、7人の徹底抗戦。
終盤描かれる教会での籠城戦は、これでもかこれでもかの迫力。
久しぶりに、力のこもった第二次世界大戦実録映画でした。