劇場公開日 2018年2月16日

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「2018年のベスト3候補です」リバーズ・エッジ まつこさんの映画レビュー(感想・評価)

5.02018年のベスト3候補です

2018年2月17日
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のっけから4:3のスタンダードサイズで、ビデオテープで見るような画質に"行定勲"の名前が表示された画面にもう圧倒されて溜息が出た。始まって数秒でこの映画が観られた事に幸せを感じる作品を作ってしまう行定勲監督は年を追うごとに尊敬、崇拝の念が止まりません…このまま私の念能力が覚醒するんじゃないか(?)ってくらいの強い念です(最近「HUNTER×HUNTER」最新刊出たんで少し影響されてます…)。

岡崎京子原作も本当に凄いと思う。それを監督と脚本家で新しい作り方と構成と見せ方を上手く織り交ぜて映画という作品にしていますが全てしっくりきます。若者の暴力や闇や問題や心を描く映画や作品は数あれど、大体の作品は、何となく観客がもや〜っとキャラクターの気持ちを分かったような気分になり評論家のように「若さ故の何々が痛々しくリアルに描かれていて…」なんていうコメントを誰もがしてしまう今日この頃ですが、このリバーズ・エッジは意外とひとりひとりの闇や想いが明確で、何でこういう行動に出たのか、何でこんな風にしか人に対して接する事が出来ないのか、など、人物の歪んでいる部分も妙に納得できる部分が多数あり、すんなりとストーリーに入っていけるので不思議です。ひとりひとりの行動は、暴力や薬、死体を見て安心したり、拒食症で食べては吐き、更には…などといったような目を背けたくなるシーンが多いのにも関わらず、全てのキャラクターから目が離せなくなります。
その力を支えているひとつが役者それぞれの演技力。皆アホほどに演技が上手いです。とんでもないモンスター達です。役者さんのこの作品へ向けた熱意も演出家含むスタッフ陣の熱意も多分相まって、浮いてる役者は誰一人としていない、リバーズ・エッジにおいてとても重要な空気感が作り上げられていて圧巻です。
吉沢亮。イケメン若手俳優というレッテルを貼られて、それは商業目的でもあるので理にかなっている部分はあれど、行定作品に出会えて心底良かったなと思える演技を見せてくれました。(こないだ、「オオカミ少女と黒王子」をNetflixで久々に観たところ、二階堂ふみと話している吉沢亮は今回の作品の山田の先駆けのような雰囲気が出ていて、普通にびっくりしました。映画館では気付かなかったけど、「オオカミ少女〜」の吉沢亮も良かったんです。またその映画の中でやたら長回しで二階堂ふみが"今夜はブギー・バック"を口ずさみながら歩くシーンがありましたがそこも今作とリンクしてしまうなあと今更ながら思いました。二階堂もその時の吉沢をみて今回の山田という男の子に近いものを感じたそうです、凄い。)
これを機に、もっと幅の広い役が回ってくる事と、廣木隆一や三木孝浩などのラブコメ系少女漫画原作の実写を撮りまくっている監督とは少し距離をおいて、巨匠だったりサブカルやB級映画寄りの監督にどんどん引き出しを広げてもらえるようになったらいいのになとも思います。
二階堂ふみは企画段階から関わったのもありますし元々の安定した演技力で岡崎京子作品のキャラクターになりきっています。どの作品でも安定はしてますが、やっぱり「ヒミズ」で二階堂ふみを観た時の衝撃はなかなか越えられません。が、リバーズ・エッジはかなり凄いです。
その他の、SUMIRE、上杉柊平、森川葵、土居志央梨も相当なもんです。皆、声も私達の記憶に強い印象を刻みつけてきますし、特に吉沢亮とSUMIREの「若草さん」(二階堂の役名)と若草を度々呼ぶ声が聞いてて気持ちが良すぎました。
90年代ファッションも、変にオシャレな服ではなくその当時の色んな子の服を押入れの奥から引っ張り出してきたような洋服達がキャラクターそれぞれの個性を活かしていて面白いです。時代は繰り返しますし今は前よりももっと古着系の服が流行っている気がするので出てくる服達はちょっとオシャレにも見えますが、中高生くらいの時に見ればダサいなあと思ってしまいます。そこが本当に90年代に撮ったビデオを見てるようなリアル感で良かったです。わざとらしさもなく完璧でした。

ここから先は若干のネタバレになりますが
最後の5分で、暗い気分、モヤモヤな気分、憂鬱な気分、が、がらりと変わります。いきなりきゅんとします。安っぽいきゅんではなく、ずっしりとした胸きゅんです。この作品の魅力が爆発的にあがるんです。
「映画って本当に最後の1秒とかで、自分の評価というか気持ちが全然変わっちゃうこともあるのが、別の意味で面白いなと。」→前にオカモトレイジ君が言ってた映画というものに関するコメント、まさに当てはまる、と私は思います。「ヒメアノ〜ル」を観た時もそれは感じましたが、それとはまた違い、大どんでん返し級の変化ではありませんが、ある種の暗いストーリーにぽっと灯りがともる展開で、なんかよくわからない涙がじんわり出ました。からの!小沢健二の「アルペジオ」ですよ…!「まじかすげえ(笑)」と普通に声に出して言っちゃいました。最後の5分からのアルペジオが、これがもう驚くくらい気持ちが良く最高です。小沢健二が岡崎京子との実際のエピソードをそのまま歌にしたアルペジオには、二階堂ふみと吉沢亮のラップのような音声も入り、役そのままの声で歌ってくれているので、最後の最後まで、茄子の煮浸しレベルでひたひたに作品の世界に浸れます。(何かお腹空いてきたな)

漫画の実写化には反対派の行定勲監督ですが、去年9月に発売された自身のエッセイ「きょうも映画作りはつづく」(←私の愛読書です!!)には、岡崎京子作品は実写化してみたいと書いてあった(ような気がする)ので、今回の「リバーズ・エッジ」実写化のニュースを見た時は少し興奮しました。そして、映画を実際に観て、原作へのリスペクトと監督自身の作り手側からの手の込んだ様々な手法が入り混じり、今回とんでもない作品になってて…。監督の成長もチャレンジも留まることを知らなくて…。私の行定勲監督への想いがまた爆発しました。今なら世界の中心で、行定勲監督への愛を叫べますよ…(何か怖い)。
頭くしゃくしゃになるくらい衝撃作ですが、邦画好きな人、映画館で観てくださいね。

まつこ