「これはファンと作品自体に失礼だ!」交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
これはファンと作品自体に失礼だ!
ん〜〜〜、まずは長い一唸り。
昨今のマンガ・アニメを観て思う。
売れた作品をリメイクする、または続編を制作する、これらがいかに多いことか。
まずはマンガ、荒木飛呂彦の『ジョジョ』シリーズは中断なく連載されているので置いておくとしても、車田正美の『聖闘士星矢』は主役が物語の最後で死んだにもかかわらず無理矢理の設定で続編が始まった。宮下あきらは『激!!極虎一家』や他の自作から主人公を抜き出して『男塾』の続編を描いているし、巻来功士はここ何年も断続的に『ゴッドサイダー』ばかりを描いているイメージである。平松伸二は『ドーベルマン刑事』や『ブラックエンジェルズ』『マーダーランセンス牙』の自作の中で人気の高い続編を描いているが、こちらも酷い!『ドーベルマン刑事』や『ブラックエンジェルズ』では完全に主人公や名物キャラたちが脳天を打ち抜かれたり何発も体に銃弾を浴びて死んでいるのだ。
鳥山明は原案だけだが『ドラゴンボール』も『ドラゴンボール超』として続編が創られTVアニメ化までされている。
(さらに酷いのはTVドラマ化されるまでになった島本和彦の自伝『アオイホノオ』の成功を受けて、他の作家たちまで自伝を描き始めたことだ。前述した車田正美も巻来功士も、平松伸二までも自伝マンガを刊行している。)
監督は変わる場合がほとんどだがアニメはどうかと言えば、ガンダムも『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』が創られているし、サイボーグ009はしょっちゅうリメイクされる。
元は実写作品だが『打ち上げ花火、〜』もアニメリメイクされた。ゴジラもアニメ化されて近々上映されるようだ。
これはアニメに限らず実写も一緒だ。
本家の実写のゴジラは日本でもハリウッドでも新作が創られハリウッドはシリーズ化の予定だ。
『攻殻機動隊』もハリウッドリメイクされた。
そう、ハリウッドの最近の話題作など露骨にそればかりだ。マーベルシリース、DCユニバーススリーズ、ダークユニバースシリーズはもちろん、エイリアンシリーズでは新作が創られ、『猿の惑星』はリメイクされた上に続編が創られ続けている。
TVにおいてもデヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』まで続編が制作された。
何もこれは現代に限らない。シャーロック・ホームズは一度死んだのに人気があったために作者のコナン・ドイルの意志に反して復活させられたし、フランスの大作家バルザックの作品群は「人間喜劇」と呼ばれ、登場人物が相互に絡み合っていたりしてある種のシリーズだ。
売れたものはなるべく焼き直したい、続けたい!作家も出版社や映画会社も労少なく功大きい方がいいに決まっている。
数え上げたらキリがない!
だからこそだ!読者や視聴者、観客は気軽に観る分、評価は厳しい。
それを覚悟で作品を制作するべきだろう。
なぜリメイクした!
本作を鑑賞している間中ほぼずっとこの問いを銀幕に投げかけ続けた。
筆者はTVオリジナル版の放映当時、TVでは観ていなかったものの、DVDで新巻がリリースされる度にその都度観たものだ。
もう内容を語る気さえ起きない。
本作の売りである冒頭において、主人公レントンの父アドロック・サーストンが英雄と崇められるいわれとなった「サマー・オブ・ラブ」が湛然に描かれる。
が、これだけだ!
初めの20〜30分だろうか?もうこれ以上観る価値も語る価値もない!
1年前、2日後、8日前、10日後と行ったり来たりする構成は全くもってわかりづらい。
またこれは本編冒頭の「サマー・オブ・ラブ」の時から言えることだが、字幕が多過ぎる。
船が轟沈している観ればわかる映像に「轟沈」の字幕はいるだろうか?
また字幕は1秒間に3文字で計算するのが基本となるが、長ったらしいものでもパッパッと出ては読む間もなくすぐ消えてしまう。
仲間のもとを飛び出したレントンが一時期身を寄せ疑似家族のように仲良くなるが最後は心ならずも敵味方になってしまうレイとチャールズ夫妻との関係性は、なぜか父のアドロック死後に彼らの養子としてひきとられていた設定に変わっていた。
レイとチャールズの搭乗するロボット(KLF)は「ロボット魂」というブランドで可動フィギュアとして商品化されている。それだけ心に残るエピソードの1つである。
結局冒頭の「サマー・オブ・ラブ」以外はTVシリーズの映像を使い回しているので、無理矢理その設定に沿う言葉を登場人物たちに話させている。あまりにも不自然だ。
またレントンのモノローグ形式で物語が展開していくためか、話のはしょりがあるからなのか、レントンは熱い、というよりうざい奴になりさがっている。
TV版のレントンってこんな奴だったろうか?オレが年くって共感できなくなっただけか?
まだある。
本作用に新しく制作された映像はもちろん16:9の画面アスペクト比となっているが、TV版使い回しの映像は4:3のままである。
今観ても当時のTV版の映像の完成度には驚くが、使い回しが一目でわかるアスペクト比は手抜き感が強くかなり興をそぐ。
回顧シーンだから比率が違っても問題ないでは済まされない。
ほぼすべてに渡って全く共感できない。
レントン役の三瓶由布子もヒロインのエウレカ役の名塚佳織も既に結婚して一児の母になった。
時間が経つのは早いものだ、とそんなのどかに感傷にもひたれないほど本作はひどい!
思えば前回『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』という題名で映画化された際もとんでも設定にして別次元と言い張っていたではないか!
そこまでして映画化する理由はなんだろう?
どうせ観るだろ!とタカをくくって、結局はファンの懐を当てにしているだけなのか?
こういう商法はやめた方がいい!
ファンにも作品にも失礼だ!
良かったのは音楽だけだ。ドイツのユニットHardfloorの作曲した音楽と尾崎豊の息子である尾崎裕哉の歌う主題歌『Glory Days』は作品に光を差し込んでくれる。
TV本編でも電気グルーヴ『虹』やクラブハウス系の音楽が流れたり、オープニングやエンディングの曲にFLOWの『DAYS』、HOME MADE家族の『少年ハート』、HALCALIの『Tip Taps Tip』、NIRGILISの『sakura』などの名曲がたくさんあった。
本作で流れたTV版への懐かしさをかき立て各シーンを盛り上げる曲には感謝したい!
次回作、観はするが全く期待しないことをここに表明しておく。