劇場公開日 2017年12月23日

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「この作品は流石」勝手にふるえてろ R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0この作品は流石

2024年7月20日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

芥川賞作家の小説を映像化した作品のようだ。
この作品は解釈することは難しい。
一人の女性江藤良香の頭の中のおしゃべりを映像化しているが、そこに介入する「現実」
その現実に勝手な解釈を頭の中でし続けている。
その様子をミュージカルのように表現している。
良香の頭には、彼女が「イチ」と呼ぶ同級生一宮を勝手に幻想化した人物がいる。
イチは彼女にとっての王子であり恋人であり理想だ。
また良香は「二」と呼ぶ彼女本来の本能でもあり、普段会社などで表現している自分がいる。
「二」は絶えず攻撃的で他人を批判するのが得意だ。
そんな中でも同僚のクルミとは気兼ねなく話すことができる。
10年前に一宮を知ったときから良香は恋をしたが、現実よりも「イチ」を肥大化させて生きてきた。
さて、
良香にとって霧島は「二」なのだ。
絶対的存在のイチである一宮に対する「二」なのだろう。
「二」から告白された時、ミュージカルが始まった。生まれて初めて告白された。
しかし、
どうしても「二」でしかない霧島だが、何度かデートを重ねていくうちに「違和感のない」存在になる。
「好きでも嫌いでもないけど、違和感がないことは大切なこと」
一宮とは趣味もおしゃべりも合うが、私「江藤良香」という名前すら憶えていなかった。
10年間思い続けていた相手は、私名前さえ覚えていなかった。
「あ~~~~~~~~~~~」
この現実に毎日の幻想のすべてが崩れ去っていった。
バスで会うおばさんも釣りのおじさんも、バーガー店の金髪の店員も全部、誰一人私は名前を知らない。
聞いたこともないし実際話したことさえないから。
彼らは皆「私のことなど見えてない」
「私は、絶滅すべきでしょうか?」
この現実に対し「二」は、「好き」と言った。
でも良香にはどうしても許せないことがあることを知った。
「一度も男と付き合ったことがない」
クルミと「二」が密かにしていた会話がどうしても許せない。
頭の中のおしゃべり本能が止まらなくなる。
頭の中のおしゃべりが強大化する。
会社の皆が笑いものにする声が聞こえてくる。
「アイツ処女だってよ」
しばらく休む手段として考え付いた最強の「理由」
「産休届け」
頭の中の暴走の極致 「普通」であればだれも考えつかないこと
それを当たり前のようにフレディに提出
「却下だ」
「へっ!?」
この恐ろしさ 自分が何をしているのかわからなくなってしまう怖さ
勝手に現実を思い描き、その幻想に苦しむ まさに自作自演
エゴの正体
誰もが少なからずしてしまっていること
この正体についてこのようなタッチで描くのはすごい。
しかし、
良香が霧島にキスする瞬間、「勝手にふるえていろ」と言った。
この瞬間の彼女の心理が読めない。
このセリフは良香が自分の「二」に対して言った言葉だったのではないだろうか?
彼女はいつも寝る前に広げた両足をひとつにくっつける。
それが「イチ」の夢を見る秘訣
普段の「二」から「イチ」の幻想を見る手段
しかし、「イチ」は消えてしまった。もうイチの夢は見ることができないのかもしれない。
幻想は現実によって打ち砕かれたのだ。
良香は会社でのドタバタ劇からずっと「二」から電話が来ることを望んでいた。
しかし、あんなことを言ってしまった。
恐る恐る電話を掛けてみるが「着信拒否」されていた。
初めて自分の気持ちがどこにあったのか理解した。
偽名で会社に電話し、彼を呼ぶ。
概ね半部イカれている彼女の思考だからそんなこともできたのだろう。
彼女はまともじゃない。
しかし霧島は訪ねてきた。
胸につけられた赤い付箋
霧島にとってその印は大きな有効打になったのだろう。
彼女の言葉と本心は裏腹だということがよくわかったのだろう。
だから恐れることなく本音を言って、大げんかできたのだろう。
そんな彼女のすべてを受け入れられるのだろう。
良香の本能 それは本心ではない 単なる反応だ
その反応に「好きだ」と答える霧島に、良香はもう何も言えなくなってしまう。
いつも誰かの反応に震えて生きてきた自分
他人の評価に対する恐怖
その前に自分が他人を評価することでマウント状態を確保する
いつも聞こえてくる他人の声 幻聴 それに反応して勝手に自分の優位性を確保する今までの自分。
霧島の瞳に映る自分 「二」 エゴ
そのエゴに対し「勝手にふるえてろ」
私は私の現実の人生を端然と生きることにした。
誰もが持つ頭の中のおしゃべり
そこからの脱出をコミカルに、ミュージカル風に表現しながら描いている。
さすが芥川賞作家の作品だ。
素晴らしかった。

R41