「ふるえるほどの恋をしろ」勝手にふるえてろ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ふるえるほどの恋をしろ
OLのヨシカ。
10月生まれ。
B型。
雪国育ち。
一人っ子。
…と、ここまでは一見普通の女子なのだが、
趣味は、絶滅動物。そんなサイトを見てると、気付けば朝に。
特に、アンモナイトが好き。アンモナイトの化石を買っては、毎日愛でる。
会社や周りの人に勝手にヘンなあだ名を付けて楽しんでいる。
筋金入りの変わり者、ひねくれ者。
さらに、
本人から言わせれば、友達ナシ。
恋愛経験もナシ。つまり、彼氏ナシ。
所謂“こじらせ女子”。
でも、恋はした事がある。と言うか、今もしている。
中学時代のイケメン同級生“イチ”に、10年間ずっと片想いしたまま。…あ、勿論、中学時代親しかった訳ではなく(ほとんど他人)、卒業以来会った事も無い。
いちいち言わなくてもいい事だけど、イタイ女。
それでも、自分の恋路に満足している。と言うか、妄想恋の自己陶酔。
そんなある日、平凡な会社の同僚“ニ”に告白される。
まさか突然やって来た、リアル恋!
でも、私には王子様が…。
一人妄想の恋か、現実の恋か。
ヨシカの恋は当然、一筋縄ではいかない…!
綿矢りさの同名小説を、女流監督・大九明子が映画化。
女性だから描けるイタイタしい乙女心。
問題は、主演。
こんなにクセがありまくりの異色ヒロインを演じられる若手が居るのだろうか…?
居た。
松岡茉優という天才が。
とにかく本作、松岡茉優という才能にふるえる。
笑って、怒って、泣いて、喜怒哀楽発散。ミュージカル風に歌まで披露。
喋って喋って、毒づいて、テンションもハイ&ロー。
キュートに、時々イラッと。
コメディエンヌとして魅せると同時に、若手でも屈指の実力派としての高い演技力に圧倒される。
松岡茉優をしっかりと認識したのは、『ちはやふる 下の句』でのクィーンだった。
それ以来気になって、他に何出てるか調べてみたら、『桐島、部活やめるってよ』でのムカつく女子だった事に驚いた。非常に印象残ってて、あれが松岡だったのか…!
今年は再びクィーンに扮し、『万引き家族』では新たな一面を見せ、そこへ来てこの(見る順番は逆になってしまったが)堂々初主演。
松岡茉優、万歳!
さてさて、
告白されて、さすがに舞い上がるヨシカ。
一応ニとデートしたりしてみるが、冷たくあしらう。
タイプじゃないし、ウザい。とあるシーンで、あそこまで追いてきて、ストーカーかよ!
そんなある日のある事をきっかけに、イチともう一度会う為、かなり強引なやり方で同窓会を計画する…。
同窓会にイチが現れた。
案の定、不器用。やはり声をかけられない。
その後、ある二人だけの場が出来、思い切って話し掛けてみると…
趣味が合った。あの趣味が。
中学の時に話し掛けていれば、ひょっとして…。
が、まさかの落とし穴。
ヨシカにとってイチは“視野見”(←相手を直視せず、視野の端で見るヨシカの造語)の存在。
イチにとってもヨシカは“君”だった。
だけど、ウザいアイツは違う。
常に私を直視してくれるし、私も直視出来る。
そして、名前で呼んでくれる。
ウザかったのに、いつしかニの存在に救われる。
やっぱり、妄想の恋より、現実の恋。
幸せ~♪
普通だったら、これでハッピーエンド。
でも、この異色ヒロインの恋路がすんなり行く訳がない。
勘違い、被害者意識甚だしい暴走、迷走。
もはや狂気にすら取り憑かれて、イタイ女を通り越して、とことんダメ女。
でも、孤独や侘しさ、寂しさを感じたね。
恋をする、誰かを好きになるって、時にこんなに辛いのか。
突然ミュージカル風になってヨシカが歌い出す際の幾つかの歌詞に、ちょっと自分を重ねてしまったりした。
(このシーンの時、ヨシカが今まで気軽に話し掛けていた町の人々が、実は…まあ、予想はしていたけど)
ヨシカはこのまま絶滅動物に…?
絶滅動物が絶滅したのは、自然の不条理もあるが、守ってくれる存在が居なかったからでもある。
でも、ヨシカは違う。
こんなダメダメな私でも、心配してくれる人が居る。向き合ってくれる人が居る。
そんな相手に、洗いざらい本音やキツイ事までぶちまけてしまう。
それって言い換えてみれば、そこまで心の内をさらけ出せるっていう事。
本心から向き合って、好きになって、相手もふるえている。
私もふるえている。
ふるえるほどの恋をしろ。