「ボディーブローを食らわされた」勝手にふるえてろ ヒレ肉さんの映画レビュー(感想・評価)
ボディーブローを食らわされた
凄い。ひどい。ひどいよ。何てものを作ってくれたんだよ。
観た後しばらく呆然とした。帰り道、今すぐ私から正気を奪ってくれという気持ちになった。今すぐ私を抱き締めてくれ。助けてくれ。
松岡茉優主演のこじらせ女子のラブコメを期待した人達からしたら「なんじゃこりゃ」な話であろう。ラブコメではない。ヨシカ本人は大真面目だけど周囲から見たら滑稽極まりない話ではあるけれどラブコメではない。
私が好きなイチを選ぶか、私を好きな二を選ぶかとかそういう話じゃない。
自己愛を貫くか、他者を選んで世界と関わる方を選ぶかという話。
中盤まではそんなにつらくなかった。
ヨシカ視点とは言え個人的にイチ自体がそこまでのめり込む程魅力的に感じなかったのもある。イチはただただヨシカの「名前を知らなかった」だけだし、(いやヨシカからしたらそれまで愛していた自分の世界が崩れる一大事なんだけども)むしろ現在のイチとの会話シーンがヨシカにとって都合が良すぎて、どこまでがヨシカの妄想なんだ??と思いながら観ていた。
触れない愛(ヨシカの空想上の王子様のイチ)より触れる距離の好き(二)を選んでハッピーエンドです、で終わる話なんだと思っていた。途中までは。
後半から怒涛の展開である。
二を選んだ直後、己の絶対に守りたかった秘密が暴露され、ヨシカの精神は崩壊する。
自分を心配してくれる同僚の友人や二に対し
「お前らは私を見下してたんだろ!!」
「処女だから好きとか可愛いとか思ったんだろ!!!」
と暴走したあげくの偽造妊娠、偽造育休、すごい。見てらんねえ。こんなに見てらんねえヒロイン居ないよ。この役をやりきった松岡茉優はすげえよ。
友人の電話も出ず二にも愛想を尽かされ、もうこれ何処に着地するんだよ。自分に都合のいい王子様のイチが居る妄想の世界へ完全に旅立ってしまうしかないんじゃないのかと思った。
ラスト、ヨシカは初めて他者である二に対して感情をぶつけます。
このシーンが一番好きです。
今まで妄想の中でしか他人と関わらなかったヨシカが初めて他者と言い合いになる。
二はすごいよ。目茶苦茶しぶとい男だよ。そしてヨシカは初めて二の名前を呼びます。
「キリシマくん」。
最初観た時は「二は悪い奴じゃないんだろうけど付き合いたくはねえな」と思うが最後まで観ると「二と付き合いてえ」としか思えなくなる。
ヨシカの中のイチは絶滅したけれど二は絶滅しない。
感情を整理したいのでもう一回観ます。
>二はすごいよ。目茶苦茶しぶとい男だよ。そしてヨシカは初めて二の名前を>呼びます。 「キリシマくん」。
これこれ!まさしくこれ!
言語化能力すばらし!
「私が好きなイチを選ぶか、私を好きなニを選ぶかとかそういう話じゃない。
自己愛を貫くか、他者を選んで世界と関わる方を選ぶかという話」
この一文がしっくり来すぎて何度も読み返してる。