「大自然の営みを人間の身体を使って描く、見事な死生観ストーリー」あさがくるまえに Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
大自然の営みを人間の身体を使って描く、見事な死生観ストーリー
これは傑作だ。言葉を尽くしても伝わりにくい。ぜひ観てほしい。
一言でいうと、"心臓移植の映画"なのだが、ドナー(臓器提供者)となる青年シモンと、レシピエント(臓器受容者)の音楽家クレアの物語になっている。医学モノとしても、死生観を物語ったヒューマンドラマとしても新しい。
青年シモンのエピソードでは、恋人や友人との関係を映し出し、突如やってきた"脳死"という事実に向き合わなければならない家族の混乱と決断を描く。また、音楽家クレアは臓器提供を待つ心臓疾患を抱えているが、子供も大きくなり、若くない自分が他人の生命を受け取ることに疑問を感じている。
そんな2人のストーリーを交えながら、"心臓移植"という生命のリレーを静かに淡々と捉えている。立場によって変わる印象~死別による"悲しみ"と、移植成功による延命を勝ち得た"喜び"の対比。そこに関わる医療関係者の立場もそれぞれだ。
地球や大自然を営みを、生命の死滅と再生という視点から描いた作品は多くあるが、"人間の身体"を具体として表現した作品は、なかなかない。
本作ではさらに、"臓器移植コーディネーター"にフォーカスしている。本作は24時間という実時間の中で完結するストーリーだ。
コーディネーターのトマは、脳死患者の家族に事実を伝え、その命が別の命を救う可能性があることを説明する。家族を説得するわけでもなく、かといって臓器移植を待つ医療機関のために、限られた時間内ですみやかに仕事をまっとうしなければならない。トマは、シモンの両親に寄り添いながら、その"デリケートな仕事"をこなす。
印象的なのは、臓器を取り出す瞬間の現場シーン。トマは脳j死状態のシモンに話しかけ、恋人が託した曲をイヤホンで聞かせる。また処置後のシモンの遺体を丁寧に洗浄する姿は、「おくりびと」(2008)の納棺師を彷彿とさせる。
カメラワークも特筆すべき点がある。長回しを効果的に使って時間経過をコントロールしている。また早朝の空気感、海(波)、手術着と処置室の色彩など、全編にわたってブルーを基調として理性的な受容を促している。
原作はメイリス・ド・ケランガルのノンフィクション小説で、2003年に出版されてベストセラーになった。英語版の「The Heart」は、あのビル・ゲイツが毎年発表する、"この夏の必読書5冊"に選ばれたことでも有名である。また秦基博の2009年のバラード楽曲「朝が来る前に」が、本作タイトルと同じということでイメージソングとなっている。
(2017/9/16 /ヒューマントラストシネマ渋谷/シネスコ/字幕:寺尾次郎)