「ただ一点のミステイクが名画の誉れとキネマ旬報ベストテン入りを阻んだか…」女神の見えざる手 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
ただ一点のミステイクが名画の誉れとキネマ旬報ベストテン入りを阻んだか…
「恋におちたシェークスピア」の
見事さに感服した余韻で、
録画撮りしていた同じジョン・マッデン監督
のこの作品を再鑑賞した。
そして、この作品も、
ラストでの仕掛けは勿論のこと、
銃規制で運動する女性が銃で救われる
という、
正に銃規制反対派議員が言っていた論点の
通りの事件になってしまうという皮肉さ等、
素晴らしい展開に感服したまま
鑑賞を終えた、
ただ一点を除いて。
ところで、「スリービルボード」のように
あえて結論を描かず
その解釈を観客に委ねる名作があるが、
この作品でも主人公が出所した時に
誰かが迎えに来ているようなラストの描写
だったがそれを明らかにはしなかった。
その人物はロビー会社CEOでも、
弁護士でも、
銃で襲われたチームの女性や
密偵の女性でも無く、
多分に彼女の聴聞会で、
主人公との性的な関係を否定した
エスコートサービスの男なのだろうと
想像したが、どうだろうか。
「恋におちた…」で散々恋心を描いた監督が、
この作品では触れることの無かった恋愛要素
を唯一作品に落とし込み、
ロビー会社CEOの誘いのメモの言葉や
銃で襲われたチームの女性との経緯と共に、
彼女の人間性回帰の一環
と思いたかったので。
さて、いずれにしても作品冒頭での主人公の
「敵が切り札を使った後、自分の札を出す」
との信念がラストのどんでん返しに
結び付くまでの緊迫感が素晴らしい。
初めて御覧なった方は
驚かれたのではないだろうか。
既にカラクリの分かっていた私でも、
主人公の緻密な戦略に
改めて舌を巻くばかりだった。
しかし、同時にこのカラクリの関連描写が
ミステイクに思え、もったいなく感じた。
主人公が密偵の女性に電話をして、
それが何かのサインで最後の段階に入った
からとの興奮状態を描きたかったのか、
単に観客を欺そうとしたのかは
分からないが、
彼女の荒げるシーンが肝心な結末との関連で
不自然に感じてしまうばかりで、
この誤解を招くシーンは不要だったと
思わざるを得なかった。
キネマ旬報では2人の方が満点を付けながらの
第21位(読者選出14位)との評価だったが、
私には全体的に完成度の高い作品に
思えただけに、
多分にこのミステイクの描写が
「恋におちた…」と並ぶ名画の誉れと
キネマ旬報ベストテン入りを阻んだのでは
ないかと勝手に想像もした。