「アメリカの見えざる病」女神の見えざる手 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカの見えざる病
日本では馴染み難い題材。
まず、ロビイストとは何ぞや? 聞いた事はあっても、詳しくは知らない。
ロビイスト。それは、アメリカ政界の戦略のプロ。
そして、銃規制法案。
なので、最初はなかなかに手こずった。
しかし、骨太でスリリングなストーリー、アメリカ社会の闇が垣間見える興味深い題材、そしてジェシカ・チャスティンの熱演(と美貌)もあって、次第に引き込まれていった。
大手ロビー会社に属するロビイスト、エリザベス・スローン。
どんな依頼も勝利に導いてきた。
やり手、切れ者、有能…いずれも“超”が付くほどであるが、そのやり方は、勝つ為には手段を選ばない。
違法スレスレ…いや、明らかに法を犯してるものも。
仲間にも手の内を見せない。と言うより、おそらく仲間など信用していないだろう。
時には仲間をも利用し、自分をも偽る。
敵に回すには恐ろしいが、味方でいても手に負えない。
果たして人の血が通ってるのか…? 人の感情はあるのか…?
黒も白に塗り替えるのも厭わない彼女に、信念などあるのか…?
信念はあった。
新たに提出された銃規制強化法案を潰せという依頼を断った。
意外にも銃反対派。
会社をクビになるも、銃規制を推進する小さな会社に移籍。
古巣を敵に回して闘うが、彼女の存在が政界に“激震”を投げ掛ける事に…。
彼女のこの強さは必然であろう。
政界は圧倒的に男性上位社会。
女性なんて舐められ、ましてや彼女のような強い女性は目の敵。
相手に一切弱味を見せず、怯まず、堂々とし、常に勝ち気。
例えどんなに叩かれても。
彼女のやり方がいいか悪いかは簡単に言い切れないが、自信に満ち溢れた女性の姿はどんな世界でもカッコいい。
体現したジェシカ・チャスティンがそれに拍車を掛けるほど、美しく、カッコ良すぎるのだ。
グレイテスト・ジェシカ・チャスティン!
本作でのジェシカの熱演は、彼女の出演作の中でも特に好きな『ゼロ・ダーク・サーティ』にも匹敵する。
入魂の熱演だけじゃなく、細かな役作り…例えば、メイクや衣装にもこだわりが見える。
濃いメイクに真っ赤な口紅。相手を威嚇。もしくは、自分の本心を見せない。
衣装は全て黒が多い。信念の人物なら自分に一辺の曇りが無い白や明るい色調だろうが、黒ベースは自分の真っ当でない性格も表している。
ジェシカでなければここまで本作に惹かれなかったであろう。
全てに於いてジェシカに魅了される。
(新作の『モリーズ・ゲーム』も楽しみ!)
政界での闘いは延々と命を狙われてるようなもの。
一時も緊張が緩む時は無い。
形勢は逆転し続け、全くどうなるか分からない。
敵もこちらも卑劣な手を使って、今日は勝っていても、明日には…。
敵の切り札。こちらのピンチ。
こちらの切り札。敵のピンチ。
予見し、常に一歩先を読む。
これらは全て、計算ずくか…?
そんな彼女も窮地に立たされる。絶体絶命の窮地に。
これも彼女の戦略か…?
それとも…?
勝敗は、そして彼女の信念は…?
アメリカの社会問題である銃事件。
ならば、銃などさっさと規制すればいい。
銃社会ではない日本からすれば口では簡単に言えるが、実際はそう簡単ではない。むしろ、難問。
銃の事件が起これば、銃購入数が減るどころか、増えるという皮肉。
自分の身は自分で守る。
分からん考えでもないが…、それでまた悲劇的な銃の事件が起こる。
もう、病だ。
ライフルは神からの恵みもの…なんて事を誰かが言った気がしたが、被害者を前に、同じ事が言えるか…?
作品はアメリカ銃社会に疑問を投げ掛ける感じで、単純に銃反対!と訴えず、こちらにも考えさせるようになってるのがいい。
だから少しだけ、もっとアメリカ銃社会に踏み込んでも…と、一瞬思ったが、本作が訴えるのは、もっと大きなもの。
アメリカ社会そのもの。
民主主義を蝕む寄生虫たち。
寄生虫たちとは、甘い汁をすすり続ける政治家共だけではなく、偽善者たち、そしてロビイストたちも。
エリザベスの最後の“激震”は、スカッと痛快させると共に、ゾッとさせるものも感じた。
本当に手段を厭わない。
こんな手を使うロビイストたちが大勢いる。彼らに依頼する政治家たち顧客も。
そんな彼らを告発する。
自分を投げ売ってまで。
その覚悟に、エリザベスの本当の信念を見た。