「全体的にぬるくて薄味で物足りなさが残る」人生はシネマティック! 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
全体的にぬるくて薄味で物足りなさが残る
戦時中、国民の戦意昂揚映画としてダンケルクでの美談を映画化しようとした人々を描いたブリティッシュ・コメディ。イギリスの喜劇は個人的に相性が良いと感じていて、毎年必ず一作は愛すべきキュートなコメディ映画に出会えたりするので(2016年は「ロイヤル・ナイト」が金平糖に甘く可愛いコメディで好きだった)期待感もあったのだが、この作品はそこまで嬉しくなるようなものでもなかったかなぁ?というのが正直なところ。もちろん戦時中の出来事を描いているし、ハッピーになるだけがコメディではないのは重々承知の上。ただこの作品は全体的に薄味で、全般的に物足らなさが残った。
映画自体にはいろいろな要素が盛り込まれていて、もちろん戦時中の人々の様子ももちろんだし、映画製作の裏側、そして突如脚本家として抜擢されたヒロインの奮闘、わがままな大御所俳優をはじめとした撮影所の混沌、そうして描かれるダンケルクの映画と、戦争の牙・・・と物語の中にはしっかりと多面性があって多層的なように思えるのだけれど、しかし実際に映画として描かれたストーリーを見て考えると、映画製作の裏側の面白みも、ヒロインの奮闘ぶりも、撮影所でのハプニングだらけのドタバタも、そして戦争の怖さも、いずれも中途半端な描かれ方にとどまり、どの要素もあまり印象を残さない。せっかくビル・ナイがいるのだから、もっとビル・ナイにめちゃくちゃやらせてもよかったし、無名の若手女性脚本家が呼気奮闘する社会派コメディでもよかったし、映画製作の裏側を皮肉った内幕ブラックコメディでもよかったし、ヒロインのロマンスをフィーチャーしてロマンティックコメディもあり得たわけで、そんな具合に可能性はいくらでもあったはずなのだけれど、どれもこれもをひとつまみするだけで味を感じないまま、ぬるま湯のまま終わってしまったような感覚でちょっぴり残念。まぁ、気楽に見られるコメディとして考えればそれもまた一つの味わいかもしれないけれど、題材を考えるとやっぱり物足りない、が素直な感想だった。