「竹内結子のおかげで、不覚にも泣いてしまった。」旅猫リポート Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
竹内結子のおかげで、不覚にも泣いてしまった。
有川浩原作の映画は苦手である。卓越したストーリーテラーの人なので、妄想じみた設定でも読ませる。ところが、映画になったとたんに、シラケる。ごめんなさい。その有川にして、"一生に1本しか書けない物語"という思い入れのある原作らしい。
プロットは単純である。主人公が愛猫を、"ある事情"から手放すことになり、・・・なんて紹介がモヤモヤする(苦笑)。みんな分かってるのに。
愛猫を手放すなんて、よほどの理由に決まっている。要するに、"余命わずかな”主人公の悟(福士蒼汰)が飼い猫・ナナのため、新しい飼い主を探すわけである。そんで死んじゃう、ベタな映画。
しかしながらクライマックスは、分かっていても泣ける。だって、家族同然の猫が死んじゃうんじゃなく、主人公を看取るのが猫のほうだもんね。
福士蒼汰のそつのない演技はもちろん、やっぱり叔母さん役の竹内結子のおかげともいえる。また主人公には病気以外にも秘密がある。
"主人公"と"パートナー"がクルマで旅をするといえば、いわゆる"ロードムービー"形式である。叔母さんの住んでいる九州に向かいクルマに乗って、その途中でナナを飼ってくれるという友達を訪ねながら旅をしている。
ひとりひとりの友達との回想が、悟の生い立ちを知る要素になっていて、徐々に悟の"人となり"があきらかになる。一緒に旅をするナナが擬人化されており、映画では高畑充希がCVを務めている。ナナは、まだ若い悟の短い人生の証言者となる。
擬人化されたナナのビジュアルは、単なる猫である。はたして猫との会話に慣れている、猫好きなら大丈夫なのだろうか?
可愛らしい姿が映るほど、人格設定から覚めてしまい、ツッコんじゃいけないと思いつつも、つぎつぎ疑問が・・・。
この2人旅は飼い主が見つかれば、それでおしまいのはず。なのに九州までの旅程に、ほどよく友達が散らばっているし、残された時間を考えれば、無理にでも預けるでしょ。結局、叔母さんに甘えて、新しい飼い主が見つからないことが前提の旅なんだなぁと思ったり…
1日置いて、本作を思い返してみると、とんでもないことに気づく。この作品の主人公・悟こそ、"野良猫"の象徴だったのだ。
悟は、本当の親を知らない"捨て猫"で、血のつながらない飼い主(事故死した両親)に拾われ育てられる。やがてその飼い主がいなくなることで、新しい飼い主(叔母さん)のもとに身を寄せる。そして飼い主に看取られて亡くなる話になっている。
そんなふうに考えると、表向きのテーマより、さらに胸が熱くなってくる。犬や猫を飼うということは、血のつながっていない家族を家族として迎えることの最も身近な事例なのである。
(2018/10/27/ユナイテッドシネマ アクアシティお台場/ビスタ)