「重い女のブルース」南瓜とマヨネーズ kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
重い女のブルース
実にジメっとして暗い上に考察しやすい、大変面白い映画でした。
何しろ人物描写が丁寧で、リアリティがあります。それだけで観応えありました。
ツチダは重い女ですね。せいちゃんを愛してる、って言いながら、自分が望んでいるせいちゃんしか愛していない。なので、自分の願望ばかりを相手に押しつける。
「せいちゃんは曲作っていればいいの!」って、せいちゃんはお前の所有物じゃねーぞ、って感じです。せいちゃんのため、と言う名の自己満のために愛人になった上に、そのことについての文句を言われると逆ギレとか、重い!
せいちゃんはツチダといると自分自身の主体性が殺されるため、重く感じてくるのだと思います。愛というよりも、支配ー被支配の関係です。カップルだけど、毒親と子どもの関係にダブります。
せいちゃんが働き始めると、ツチダにとって「私の望むせいちゃん」じゃなくなるので、関係にもヒビが入ってきます。
そこを突いてくるのがプロのヒモ・ハギオ。このハギオの完成度は高いですね!女性に寄生して生きるために無駄なものがすべて削ぎ落とされているような、ある種の洗練さを感じました。ルックスも含め、ヒモ男の最終進化形とでも言えそうな。本当にさりげなく金を搾取するところとか、マジで名人芸。またオダジョーが役にハマりすぎていて、ハギオが登場するたびにクスクスと笑ってしまいました。
せいちゃんはツチダの支配下から脱出し、順調に成長しますが、ツチダは最後まで変わらず重い女のまま。それが、この映画で描かれた哀しさなのかな、と感じました。あんなに辛い恋をしても変われないツチダは哀しい。
せいちゃんがパーカッション叩きながら歌った最後の歌は、そんなツチダの哀しみを包み込むような慈愛に満ちており、心がグッと動きました。歌詞も良かった。本当にツチダはこの先も迷子のままだしね。
ツチダを演じた臼田あさ美は予想外に素晴らしかったです。甘ったるくて重いけど、尖っていない主人公を見事に好演していたように思います。
あと、バンドのボーカルの子がなかなか魅力ありました。グチャグチャしているマヌケなメンズどもとは一線を引いて、バーベキューでもさっさとひとりでチャリで帰るところとか、賢さを感じました。
静謐なエンドロールも余韻に浸れて良かったです。