「全員貧困」全員死刑 kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
全員貧困
めちゃくちゃエネルギーがあってグイグイ迫ってくる、非常に観応えある面白い映画でした。しかも力技で押し切ることなく、作りが丁寧で独りよがりにならないバランス感覚もあります。えげつない事件をポップなエンタメに昇華するなんていう離れ業をやってのけており、小林監督スゲー!と感心するばかり。
事件は強烈ですが、登場人物はおしなべて小物です。例えば冷たい熱帯魚のでんでんのような、凄まじい狂気を持った登場人物は不在です。
首塚家は才覚のないヤクザ一家で、搾取され続けて困窮し、切羽詰まって暴走しただけ。そんなどうしょうもない悲惨さを感じました。
そのため、伝わってくるのはなんとも言えない貧しさ。金銭面はさることながら、教育が貧しくて強殺以外の手段がわからず、人的資源が貧しくて頼る人がいない。親の代からの総合的な貧困が連鎖しており、精神的な貧しさから抜け出すすべを知らない。
なので彼らに感じるのはむしろ悲しみでした。歪ではあるが家族愛も感じるし、根っこのところでは普通の人たちなのかな(母親除く)、と感じました。臆病な兄貴に人の良い弟なんて、まっとうな家庭に生まれていたら優しいナイスガイ兄弟になっていたかもしれない。
だからか、笑える場面はおかしみはあるけど、笑うことはできなかったのです。場にふさわしくない修羅場でのギャグなどは、恐怖と直面しないように麻痺させるためにやってる印象を受けました。
あと、弟が殺人を繰り返していくにつれ、どんどん修羅の顔になっていくのが胸に迫りました。殺めることの恐ろしさがめちゃ伝わる。その後の幻影に悩まされるのもリアル。
また、殺される側の家族も、もともと虚無っぽい印象です。殺されるのは当然最高に不幸だけど、なんか家族の断絶があるような印象。弟の「バカを見ると安心」とか、母親の兄貴に色目を堂々と使う、など。産廃業者のJK拉致は一番胸糞悪かったかも。
登場する人々がみな本質的に貧しい印象を受けました。いやー苦しいわ。
主人公の間宮祥太郎は華があり、彼がいたからポップになった印象。あと、兄貴役の毎熊克哉さんははじめて見たのですが、異常にハマっていた。ビビり方が物凄くみじめで、天才的なチンピラ俳優だと感じました。
それから、パトラが最高に妖艶でものすごく衝撃受けました。清水葉月よりも100倍エロく感じた。鳥居みゆきのことは今まで気にしたことはなかったのですが、今ではすっかり気になる人になってしまった。