「絆が作られ、壊れる物語」アイリッシュマン shikaさんの映画レビュー(感想・評価)
絆が作られ、壊れる物語
物語は、フランクの回想を基に、時系列を入れ替えながら進んでいく。
大まかには、以下の3パターンのシーンで進む。
①フランクがラッセル・ジミーと出会い、マフィアとして「仕事」をこなしていくシーン(1950年代~1970年代)
②フランクがラッセル達と共に、車でデトロイトに向かうシーン(1975年)
③老いたフランクが、誰かに向かって語るシーン(おそらく2000年頃)
④死を待つフランクが、病院で最後の時を過ごすシーン
映画の冒頭はある病院から始まり、すぐに①②③のシーンが順不同に描写されていく。これはいつの時代なんだろうと考えながら観る中で、フランクはラッセルとジミーの頼みを受けて仕事をこなし、彼らと「ファミリー」になっていく。一方で、妻と娘達との食事シーンに笑顔はなく、娘がいたずらされると過剰に報復するフランクから、家族の絆は消えていく。
フランク自身は、自分は妻と娘を愛し愛されており、再婚しても娘は愛してくれていると考えている(少なくとも①②では)が、これが結末に繋がっていく。
ケネディ大統領就任、キューバ危機、ケネディ暗殺を経て、ジミーは「ビートルズよりも人気だった」絶頂から転げ落ちていく。加えて、フランクの「ファミリー」同士であるジミーとラッセルの争いは修復不能なレベルに達し、ラッセルはジミーの始末を決意する。フランクはジミーの「ファミリー」として説得を試みるも失敗し、③のシーンがジミー暗殺へ繋がっていく。
フランクは「ファミリー」のラッセルのために、もう一人の「ファミリー」であるジミーを始末する。ここが副題の"I Know You Painted House"に繋がり、フランクはジミーを始末(Paint House)することで、フランク自身の家族(House)を汚すことになってしまう。
物語は③のシーン以後の、フランクのファミリーが次々と逮捕・死亡する様を淡々と描写し、加えてフランクと娘達に合った埋めがたい溝を容赦なく描く。
全てを失ったフランクは、誰のファミリーでもなく、ただのアイルランド人(アイリッシュマン)として生涯を終えることが示唆され、物語は終わる。