「スコセッシ&デニーロがやり残してきたこと。」アイリッシュマン MPさんの映画レビュー(感想・評価)
スコセッシ&デニーロがやり残してきたこと。
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"アイリッシュマン"ことフランク・シーランが、闇社会に深く関わったどす黒い自分史を自ら語る形で物語は進んでいく。登場するのは、マフィアのドンとして恐れられたラッセル・バッファーノや、何かと物騒な噂が絶えなかった全米トラック運転組合の委員長、ジミー・ホッファ等、それだけで1本の実録犯罪ドラマができそうな連中ばかりだ。実際、ホッファはジャック・ニコルソン主演で映画化もされている。彼の死はいまだ謎に包まれているのだ。本作は、ホッファを殺したのはシーランだったと断定する他、第二次大戦後のアメリカ裏社会の構図を、シーランを通して検証する犯罪史にもなっているところが面白い。人はどのようにして悪に取り込まれ、それが常態化していくのか?そのプロセスを誇張することなく、平常の出来事のように描くリアリズムは、マーティン・スコセッシ&ロバート・デニーロのコンビがこれまでもやってきたこと。抑制され、計算し尽くされたタッチは老いてなお冴え渡っている。しかしながら、最新作の肝は、シーランが犯罪と引き換えに捨ててきた家族への後悔と、迫り来る死の恐怖と、人としての罪悪感に打ち震える"老境"の描写。デニーロが話していた「マーティ(スコセッシ)と自分がやり残してきたこと」とは、まさにそれなのだった。
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