「ブロンドに映える反射色とその意味」アトミック・ブロンド すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
ブロンドに映える反射色とその意味
デヴィッド・リーチ繋がりで見直したくなったので視聴。
○作品全体
ロレーンの行動が全て筒抜けというミスリードを下地に敷いて、ロレーンの基礎となる色をぼかす。ラスト、コロコロと変わっていく真実…というシーンは、ぼかし尽くした色が存分に活かされるシーンだ。
色は必ずしも髪や服や照明の色だけに限らず、例えば照明の色は人に反射する色を加えれば多様性を増す。部屋全体は統一的な色が注いでいるのに、間接照明等を使っての別の色を含ませ、意味を増やすシーンが多々あった。さらに言えば、ロレーンのブロンドの髪にかかる反射色の面積によって、仮面に隠した裏の表情を見て取ることもできる。例として、パーシヴァルがロレーンの部屋に潜り込んで、それを咎めるロレーンのシーン。パーシヴァル側には青の光がブロンドの色を変えているが、その逆方向は赤色だ。ソ連・KGBを意味する赤色とも取れるし、ロレーンの内側に隠した怒りや疑心を示す警告色とも取れる。シーンによって変わっていくブロンドの反射色のエキゾチックな雰囲気、そしてそこに内包された意味を探ることも、この作品の醍醐味と言えるだろう。
○カメラワークとか
なんと言っても長回しカット。エレベーターに乗るところから始まり、下へと降りていく縦の軸を意識したアクションを長回しにするという新鮮味。階層ごとにシチュエーションを変える役割はもちろん、画面外からインしてくる時の自由自在な発想を担う役割もあった。
スパイグラスが「二人来ている」と言って二本指を出すシーンが良い。ロレーンにとっては既に視認しているが、フレーム内には収まっていないから視聴者からすれば突拍子もない出来事のように映る。視聴者側に次の相手の出現だとミスリードを狙ったアイデア。緊張感の続く長回しの中でいいアクセントになっていた。
アクションの組み立ても見てて飽きない。画面ブレを少なくしてアクションそのものの魅力で真っ向勝負している感じが良い。PVにもある横位置で左右の敵を蹴散らすカットが特に良かった。
○その他
・画面を横一線で覆うレンズフレアはデヴィッド・リーチの「手癖感」がある。あんまり意味ない気がする。でも画面の雰囲気はガラッと変わる感じではある…ただそれだけな気がする。
・美術館で窓のようなフレーム内に雨の映像を流しているシーン。あそこにやってくるとロレーンがフードを外すのがかっこよかった。ロレーンの嘘にまみれた感覚とマッチしている…けど、単純に雨なのにフードを脱ぐというのがかっこいいから!でやってそうな演出でもある。
・カット初めでグルッとカメラを回したりするカットがいくつかあった。これも表と裏の意味合いだろうか。演出的な規則性とかあるのかな。…ないような気がする。
・ラサールとロレーンの関係性が百合感強くて良い。『キャロル』よりも年が近いように見えるし、少し年上のお姉さんとそれを慕う年下、みたいな関係性。実際女優の年齢差もそんな感じっぽいけど、思っていた以上に歳行ってて驚いた。