「良く練られた脚本のホラー映画にある、人種差別批判の斬新な切り口」ゲット・アウト Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
良く練られた脚本のホラー映画にある、人種差別批判の斬新な切り口
コメディアン出身のジョーダン・ピール(1979年生まれ)が初監督した社会派ホラー映画。写真家の黒人青年クリス・ワシントンが白人の恋人ローズの実家を訪れて拉致状態に陥る恐怖を、丁寧な描写と程良いミステリアスなタッチでまとめた良作にして、黒人と白人の人種間にある旧来の差別意識ではない、優劣思想を逆手に取ったレイシズムを内包しているのが新味の切り口として注目されます。主人公が蟻地獄のような窮地に追い詰められ、脱出困難な状況をショッキングに描いた恐怖映画では、例えば日本映画の「砂の女」(1964年・勅使川原宏)や、クリント・イーストウッド主演の「白い肌の異常な夜」(1971年・ドン・シーゲル)があり、特に珍しいことではありません。脚本も兼ねたピール監督がアカデミー賞の脚本賞を受賞したのは、アメリカ映画にあって、これまでになかった着眼点の面白さが理由の一つであると思われる。ニューヨークの高級住宅地に住む白人が秘密結社のような集団を形成して、強靭な肉体と優れた頭脳を持つ黒人を選別し、臓器移植を利用して若返りと永遠の命を得ようとする。黒人にコンプレックスを持つ白人の自己中心主義を皮肉り、そこから労働力として奴隷制度を導入した人種差別と変わらない白人社会の傲慢さを、改めて指摘しています。
ストーリー展開はミステリーを徐々に明かしていて最後まで興味深く観ることが出来ます。プロローグで黒人の青年が誘拐されるシーンから、景観から分かる森の中を車が疾走するタイトルバック。ローズ家族の姓であるアーミテージを調べてみると、中世英語では隠れ家の意味があるということで、ピール監督が意図したものであるようです。但し、クリスが到着してからアーミテージ家と使用人のもてなしに不気味さが出過ぎているのが、演出として単調と見ました。特にローズの弟ジェレミーは、最初から異常者のような振る舞いを見せています。笑いを誘う演出を、特に前半にもっと入れるべきでした。そうすれば後半の恐怖感がもっと引き立つ構成になったと思われます。
丁寧な脚本と演出を裏付ける俳優陣の演技は、充実していました。クリス役のダニエル・カルヤの好青年らしい個性は、写真家としての観察力がないのが惜しいも、警戒心のないお人好しを好演しています。次にローズの母親ミッシーを演じたキャサリン・キーナーの催眠術師は、何事にも動じない心理学者の佇まいで貫禄があります。「40歳の童貞男」(2005年)「はじまりのうた」(2013年)でも、いい演技を見せていました。使用人ジョージナのベティ・ガブリエルも、特異な役柄を存在感豊かに演じていて印象に残ります。涙を流しながら笑う演技は、役者冥利に尽きる表現でしょう。マイケル・エイブルズの音楽は、アフリカ音楽を取り入れた特徴のあるもので作品に合っていました。題材の異色さはとても興味深く、ホラー映画が苦手な人でも最後まで楽しめる点において、もっと点数を付けても良いと思いましたが、演出とカメラワークの技巧の面で少し押さえました。
