「差別意識を逆手に取った巧妙なB級ホラー」ゲット・アウト 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
差別意識を逆手に取った巧妙なB級ホラー
実に良く出来たB級ホラーだ。B級ホラーとしての楽しみが存分に溢れており、そしてB級ホラー的な演出の細部が行き届いているので、分かっていながらまんまと騙され、分かっていながらもまんまとドキッとさせられ、分かっていながらまんまとハラハラしてしまう快感。良く出来ているからと言ってA級ホラーになるわけではない。けれども、手を抜くからB級なわけでもない。この映画にはB級ホラーとしての研ぎ澄まされたものを感じるほど。笑いどころもあるし、興奮どころもある。エンターテインメント感も満載で、極上のB級ホラーを楽しむという感じ。
この映画がユニークなのは「B級ホラーと見せかけて、実は差別の物語」なのではなく、むしろその逆で「差別問題の物語に見せかけたB級ホラー」をやってのけたところだと私は思う。物語が、観客一人一人がそれぞれ潜在的に抱えている差別意識を見事に利用して構成されたものになっているのが、B級ホラーとは言えなかなか巧妙な部分で、それはやはり多民族国家であるアメリカという土壌ならではのものだなと感じた。受け手側の無意識化にある差別意識を逆手に取り、そこをあえて刺激して作為的に物語をカムフラージュしながら、しっかりとしたB級ホラーの筋書きが仕上がっているという妙技。この映画を見ながら、ついつい人種や差別や人権のことを意識してしまうだろう。映画はそれを見越したうえで「え?差別?違うよ、この映画はB級ホラーだよ?」という顔を見せる。だから尚更、見ている側は差別を意識させられる。でも見終わった後は、B級ホラーを楽しんだ満足感が残る。うん、面白い。
ホラーを映画館で観るのはかなり久しぶりだったけれど、なんだかジェットコースターやお化け屋敷に近いような感覚の楽しみがあって悪くないなぁとこの作品でホラー映画をかなり見直した。なんとなくホラー映画は深夜に退屈を持て余して自宅のテレビで見るものだという気がしていたけれど、映画館で見るとまた少し違ったアトラクション的な楽しみのあるジャンルなのかもなと感じ、今後ちょっとホラー映画でも映画館へ足を運んでみようかなぁと思うようになった。