「坂本龍一という「20世紀人」」Ryuichi Sakamoto: CODA SungHoさんの映画レビュー(感想・評価)
坂本龍一という「20世紀人」
高校の時分のアイドルでありヒーローであった坂本龍一教授 のドキュメンタリーフィルム。ガン闘病を経た現在のインタビューと、過去のさまざまなアーカイブ映像などで構成された贅沢な作品。
正直言って、彼のレフト寄りな思考や行動はナイーブに過ぎてまったく好きになれないけれど、そのナイーブさから生み出される音楽には昔から変わらず虜にされる。
しかし、本作を鑑賞してあらためて思い知らされたのは、坂本龍一という人物が結局のところすぐれて「20世紀的」な人物なんだなということだった。
知性としては80年代ニューアカ的、感性としては社会へのアンガージュマンもありつつ、一方で歴史に裏打ちされた幻想と自分との関わり・距離感を意識しているという点でロマンティックで、つまり総じてナイーブ。
音楽の変遷としても、西洋的な伝統音楽から電子音楽、東洋への憧憬を経て、バッハ的なもの(本作中のインタビューで自身が「『人間的な自然』だけれど自然ではない」と言っているもの)と自然音に回帰してその両端に振れている。
それらのすべてが、まるで戯画のように20世紀的だ。森の中で鳥の声に耳を澄ます教授の姿は、まるで鳥類学者でもあったオリヴィエ・メシアンを意識的/無意識的になぞろうとしているかのようにすら見えた。
とはいえ、そんな彼の音楽を愛してやまないのは変わらない。
本作中で取り上げられたアーカイブ映像の中では、映画『ラストエンペラー』のメイキング映像が含まれていたのが嬉しかった。
北京、大連、長春を「役者」として連れられながら、ベルトルッチ監督にいきなり求められて劇伴音楽を作るところが記録されている。
上映館 角川シネマ有楽町が客入れの際のBGMにオペラ『LIFE』(1999年)の終曲「Libera me」を使っていたのもセンスが良くて好感。そしてその『LIFE』の終曲に関して、浅田彰との対談で教授は「バッハには時代を超えた強さがあって、いま自分が書くレクイエムも結果的にはバッハ的なものに近くなってしまう」と言っていたけれど、本作中の最後のコラールもまさにその延長にあるようで、そんな点からも、やはり20世紀末の時点でこの人は完成されていたのだというように感じた。