劇場公開日 2018年5月25日

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「独特の美意識、そして日本的なもの」犬ヶ島 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5独特の美意識、そして日本的なもの

2024年12月26日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、映画館

ストーリーは、あって無いようなものなので、「あー面白かった」とはならない。でも、考えさせられたことがある。確実にこの映画の中にある日本は、今の日本には無い世界だ。じゃあどこの国なの?という話になった時、確実に日本以外のどこでもない。すべて日本由来のもの、文化に彩られて形作られている。

たとえば、太平洋戦争終結後の時代に生きた人の価値観からすれば、こんにちの日本を想像できただろうか。または、彼らが現代によみがえったら、ここをどこだと思うだろうか。欧米的価値観に侵食され、全体主義から個人主義に。家父長制度はすたれ、結婚や家族形成も崩壊しつつある。

翻って、10年後、50年後の日本がどうなっているかを考えた時に、今の価値観すらも失われ、中国やアジア諸国の文化に侵食されている姿を思い浮かべるのは必然だろう。

さて、話を戻すと、この映画、よその国から見た時に日本的価値観や美意識、日本人の民族性などが実に細かく描きこまれている。妙な日本語や、サムライゲイシャなんかは出てこないし、「それは日本じゃない」というものも出てこない。

映画の中では犬は英語をしゃべり、日本人は日本語をしゃべる。犬には知性があり、人間のほうがむしろ愚かしい価値観にとらわれ問題だらけに映る。ニヒリズムに陥った犬たちは、人間の都合でいいように操られ、捨てられる。

日本人以外が見れば、この映画は立派なファンタジーであり、おとぎ話であり、優れたストップモーションアニメだ。もともと絵画的アプローチの絵づくりをしていた監督の、こだわりが細部にまで宿った真骨頂で、キャラクターの動きも独特の間をもたせていることで話が暗くならない。かならずフィックスの背景にキャラクターが移動するという法則もまるで『ピタゴラスイッチ』を見ている気分になる。そこに加えて、犬というキャラクターを得たことで、話にダイナミズムが出た。おそらく高い評価を受けるに違いない。

しかし、我々日本人にとってこの映画は、すでに失われつつある「日本的なもの」誇るべき日本の文化の宝庫なのだ。そんな映画を、外国人に撮られてしまったことを、日本の映画人は恥じるべきだろう。KIRIYAの『GOEMON』MIIKEの『無限の住人』の失敗をもう二度と繰り返してほしくはない。

うそつきかもめ