「クレイ(粘土)を使わない新世代クレイアニメの繊細な感情表現にため息」ぼくの名前はズッキーニ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
クレイ(粘土)を使わない新世代クレイアニメの繊細な感情表現にため息
かつて、こんな切ない表現をした"ストップモーションアニメ"があっただろうか?
本作は、世界最大の"アヌシー国際アニメーション映画祭"で、2016年度の最優秀作品賞と観客賞の2冠を受賞し、昨年の第89回アカデミー賞長編アニメーション賞にもノミネートされた注目作である。
アルコール依存症の母親に育児放棄されていた9歳の少年ズッキーニは、彼の過失から母を亡くしてしまう。親身になってくれる警察官に保護され、孤児院での生活が始まったズッキーニは、新しい生活の中で、同じく様々な家庭問題を抱えた子供たちと出会い、仲間や彼女を作っていく。
セリフで状況を説明するのではなく、子供たちの行動、背景、繊細な表情の作り方、絶妙なセリフの間(ま)。そしてコマ送りで紡がれるストップモーションでしか得られないアナログな味わい。
"育児放棄"、"小児虐待"、"親権争い"など、暗く重い社会メッセージがありながら、子供たちにとって孤児院は心のシェルターであり、"友情"や"思いやり"が横たわっている。こんな優しいアニメは初めてである。
近年、"ストップモーション作品"は増えている。粘土(クレイ)を使う"クレイアニメ"はその代表格で、第89回アカデミー賞には、日本でも公開された「KUBO/クボ 二本弦の秘密」(2017)もノミネートしていたり、今年の短編アニメ賞には「ネガティブ・スペース(原題) / Negative Space」がある。
また、「グランド・ブダペスト・ホテル」のウェス・アンダーソン監督のクレイアニメ「犬ヶ島」もすでに話題沸騰で、5月に日本公開される。国内でも、斎藤工プロデュースのクレイアニメ「映画の妖精 フィルとムー」が、昨年10月の東京国際映画祭で世界初上映されたばかり。
これらストップモーションが量産される理由には背景がある。それは技術的革新だ。
ひとつは粘土(クレイ)を使わない"クレイアニメ"の登場である。本作もそうだが3Dプリンターのおかげで、フォームラテックスによる自在な人形を作ることができるようになった。コマ撮りの、気の遠くなるような作業が短縮されるとともに、人形の視線や表情、より繊細な動きなどに演出の配慮が可能となる。
一方で、オーソドックスなアニメは、CG作画により実写と見紛うくらい究極の画を手に入れた。しかしその代償として、セル画的な手作りの魅力を失ってしまった。アニメのアニメらしさは、"パラパラまんが"感にあることが見直され始めている。
本作を観れば、新世代クレイアニメの誕生と可能性を目の当たりにできる。
(2018/2/11 /YEBISU GARDEN CINEMA/ビスタ/字幕:寺尾次郎)