「人生は舞台劇」北の桜守 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
人生は舞台劇
不思議な映画でした
なんなんだこれは?と序盤は斜めに構えて観ていました
さらに抽象的な舞台劇が始まると、一層これは何なんだろう?と混乱しました
1971年のシーンの狸小路もそうです
とても具象的にセットは作り込まれVFXも駆使されて細部に至るまで神経を払ったものだとわかります
それなのに、何だかとても作りものぽい
ふわふわしているのです
特にミネソタ24の店内はそうです
きっとわざとそう撮っているのだと思いました
ところがソ連の戦闘機による機銃掃射のシーンや被雷して沈みゆく船のシーンでは現実感を徹底的に追求しています
ストーリーが後半にすすみ、いよいよ物語の構造が明らかになってくるに従って、それらの疑問がするすると胸の中で腑に落ちていくのです
まるでパズルがはまっていくように
うまく説明はできないけれども納得していく自分がいるのです
最後のフィナーレの舞台劇、そしてそれを客席で観て拍手を贈る息子夫婦の姿
そのとき大きな感動が訪れていました
人生は舞台劇なのです
具象的なものじゃないのです
誰だって人生を振り返った時、映画のように具象的に隅々まで克明に記憶なんて残されてなんかいないのだと思います
抽象的な舞台劇のような表現方法こそ、人の記憶の実態に合致しているものであったのです
親の一生ともなれば、この息子夫婦のように舞台劇を観劇するようなものでしょう
素晴らしい感動のフィナーレでした
自分の人生にも同じような感動のフィナーレが訪れることを願いたいものです
満月の下の北の桜の満開の幻想的なシーン
実はそれこそ一番具象的な映像であったのです
吉永小百合は老女なのに可愛い
恐るべき俳優です
決して演技が上手いわけではないと正直思います
けれども問答無用で観客を感動でねじ伏せてしまう希有な力があるのです
その底知れぬ力がそのシーンで炸裂していたのです
昔、釧路で北の桜を見かけたことがあります
本州の桜のように白くはなく、そのシーンでの桜のように濃いピンク色に見えるのです
稚内にも行ったことがあります
札幌から旭川まで特急で2時間、乗り換えてさらに4時間もかかりました
旭川をでて森のなかをどこまでも北へ一直線に列車が進んでいきます
1時間ほど居眠りしても風景は少しも変わらないほど深い森です
真夏なのに、どんどん気温が下がりTシャツ1枚では羽織るものが欲しくなるほどになります
それなのに、ようやく稚内に着くと当地の男子高校生たちが今日は暑いべさ~とタンクトップ姿でアイスクリームを舐めていたのには仰天しました
駅からさほど遠くもないノシャップ岬までいくと遥か水平線の向こうに樺太の山並みがうっすらとみえます
氷雪の門という慰霊碑がそのノシャップ岬に建っています
樺太で終戦前後何があったのか碑文で少し知ることができます
「樺太1945年夏 氷雪の門」という映画があります
樺太で何があったかもっと知りたい方はそちらをご覧になられると良いと思います
本作はそれをご覧になられることでより一層感動が深まると思います