「贋物から出た本物」嘘八百 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
贋物から出た本物
骨董や陶芸の事は全く以てちんぷんかんぷん。『博士ちゃん』でよくやる目利きクイズで出題されても、価値ある本物か出来のいい贋物か当てられぬ自信がある。
敷居が高い芸術作品だったら私なんぞ門前払いだが、コン・ムービー的な面白味と浪花風味のユーモアと和の味わいで軽快なエンタメになっている。
詐欺師紛いの古物商・小池。
カーラジオからの“西に吉あり”を信じて大阪・堺の下町を走っていると、何やら美味しそうな蔵を見つける。
その蔵の持ち主は蔵之介…じゃなくて、野田という男。蔵の中の物は亡父が集め遺したもので、本人は無頓着。
そこでかの千利休が死の直前に作ったという幻の茶器を見つける。
騙して百万円の安値で手に入れ、ウハウハ。これを出すべき所に出せば…と考えただけで有頂天。
その時カーラジオから“落とし穴に注意”。まさにその通り、茶器は見事な贋作であった…!
野田は腕のいい陶芸家。筆跡・箱・和紙に精通している悪友三人と組んで、まんまと小池から百万円をせしめた。
騙そうとしたが、逆に騙されて…。
でも、この騙し騙されはまだまだ序の口。一世一代の大博打はこれから。
事の真相を知って小池は野田に詰め寄るが、野田は屋敷住まいどころか安アパート住まい。
いつの間にか小池の娘・いまりと野田の不細工なヲタク息子・誠治が恋仲に。(尚この二人、後々クセ者)
野田の妻も囲んで皆ですき焼きを食べている。何とも現状意味不明のシュールな光景。
何故か以来つるむようになった小池と野田。二人には共通点と意外な繋がりが。
小池が落ちぶれたのは、大御所鑑定士・棚橋と古物商店主・樋渡に騙され、大金を損失。
野田も落ちぶれたのは、棚橋と樋渡に利用され…。
奇遇にも同じ二人にしてやられた苦く痛い過去。さらに、その時小池が掴まされた贋物は野田が造ったもの…!
もうここまで来ると奇遇ではなく、何かの因果。
その過去や直近の騙し騙されはこの際いい。それぞれに訳ありなのだから。
今の落ちぶれ、うだつの上がらない身。このままでいいのか…?
自分たちを騙した奴を、今度は自分たちが騙す。
“餌”はズバリ、千利休の幻の茶器。
その本物のような贋物を造り、掴ませて大金をせしめる。
まさに、アレ。やられたらやり返す!
それは同時に、二人の人生再起でもあった…!
本物のような贋物を造る。
結局は偽物じゃん…と思ってしまうが、偽物は偽物でも本物の思いがある。
例えば映画だってそうだ。極端に言えば、嘘の物語。しかし私たちは、その嘘物語にワクワクし、感動する。作り手の“本物”の思いがあるからだ。
私たちは嘘物語の中に、世界を見る。
贋物茶器造りは、椀の中に大海原を見る。
千利休がそこに馳せた思いを込めて。見出だして。
野田が贋物茶器造りを通じて、失いかけていた陶芸への真摯な向き合いを取り戻していく様は熱い。
その姿は贋物などではない。本物だ。
茶器造りの行程も興味惹かれる。
良質の土を探し、何度も何度もこね、何度も何度も造り直し…。
遂に満足いくものが出来上がっても、それで飲み食いし、使い古された感まで造る。
そうしてようやく…。
オークションを開く。仕込みの家族や仲間、本物を強調付ける為学芸員や文化庁の者も招き、ターゲットも現れ、“決戦”の時…!
中井貴一と佐々木蔵之介の絶妙なコンビネーション。
さすが名優で芸達者な二人。掛け合い、やり取りはクスリ笑い。中年男同士の友情もしみじみと。
周りも味がある。木○○○か、坂田利夫、宇野祥平の悪友トリオ、芸人畑から友近、ドランク塚地、ベテランの近藤正臣まで、快演。
しかし印象残すのは、若い二人の森川葵と前野朋哉。茶を濁すようなのほほんLOVEやってると思ったら、最後の最後に…! 森川の可愛さと前の冴えなさに騙されてはいけません!
さすがは大御所鑑定士。こちらや周りがどんなに煽っても、贋物と見抜く。
リベンジは失敗。かと思ったら…!
贋物と嘘を付いて皆を帰させてから、意気揚々と一人占め。
かかった!
しかも、一億円(と八百万円)で落札。
このオークション・シーンが滑稽。贋物に最もらしい価値の事を言い、周りは感慨深く同調。
全て“嘘”なのに。そう、本作のタイトルは、“嘘八百”!
大御所鑑定士なのに簡単に騙されるのが拍子抜け。そういう人に限って目先のものに目が眩むと言ってはいたが…。
急にドタバタ劇になったオチ。結婚式と突如の乱入者の茶番、若い二人にしてやられ…。
騙して手に入れたものは懐に収まらない…って風刺かな。
難点はあったが、この軽快な騙し騙され劇は気楽に楽しめる。激熱作『百円の恋』の監督&脚本コンビの新たな手腕。
結局一攫千金は得られなかったけど、得たものもあった。
己の分野への情熱と人生の再起。そして、バディ。
詐欺師紛いの古物商と贋物陶芸家。
なるほど、シリーズ化されるわけだ。