劇場公開日 2017年9月30日

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「ウィルスの蔓延による惨劇と同等の絶望が既に世界に蔓延していることを痛烈に抉り取る『新感染』シリーズ屈指の社会派作品。」ソウル・ステーション パンデミック よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ウィルスの蔓延による惨劇と同等の絶望が既に世界に蔓延していることを痛烈に抉り取る『新感染』シリーズ屈指の社会派作品。

2021年12月30日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

首筋から血を流しながら苦悶する一人の老いたホームレスとその弟、安宿に宿泊する家出娘ヘスンと彼女の恋人キウン、そしてヘスンを探す父・・・様々な思いを抱えた人々が行き交うソウル駅近郊。茹だるような夜の片隅に響く絶叫が得体の知れない惨劇の幕を開ける。『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚であるアニメ作品ですが、『新感染〜』との話の繋がりはほぼゼロ。前作と同様に人間ドラマが濃厚であるところに共通点は見い出せますし、愛する者が愛する者でなくなる絶望というゾンビ映画の肝も作品のど真ん中に据えていますが、本作がより野心的に挑んでいるのは社会の最底辺にいる人々の苦悩。それは兄を助けようと奔走する弟の奇妙な行動やキウンとヘスンとの口論にべっとりと塗りつけられていて、ウィルスの蔓延による惨劇を克明に描写すると同時に韓国社会だけでなく世界中に既に蔓延している格差社会の絶望を直視している。元々社会派アニメの監督だったヨン・サンホの作家性が一番濃厚に出ている作品ではないかと思います。特に圧巻なのはクライマックス。意外にも程がある展開は他の2作とは全く異なるテイストの旋律に背筋が凍りました。

声優のチョイスも強烈で、ヘスンは『新聞記者』のシム・ウンギョン、ヘスンの父は『エクストリーム・ジョブ』のリュ・スンリョンがそれぞれ演じていて、実写版でもほぼ同じドラマを作れるレベルの見事なキャスティングに納得しかないです。

よね