「まぎれもない究極の愛の物語。お気に入りの映画です。」彼女がその名を知らない鳥たち shotamalさんの映画レビュー(感想・評価)
まぎれもない究極の愛の物語。お気に入りの映画です。
私が観た作品の中で一番好きな、まぎれもない愛を描いた物語。
最近主演の蒼井優さんがご結婚されたり、沼田まほかるさんの原作小説を読み返したりと、自分的に再度振り返りたくなった映画であったため、やや旧作ですがレビューします。
かなり賛否両論分かれる作品だと思います。私は大好きです。
陣治は十和子の性質をよく理解している。これ以上、十和子を理解できる人は存在しないだろう。
心理学的言葉をかりると、十和子はHSP(Highly Sensitive Person)気質なのだろう。
働くわけでもなく毎日DVDをみたり自堕落な生活を送っているようにみえる十和子。
なにもしていないはずだが、十和子は非常に繊細な気質であるため、なにごとにも常に気を張っている状態。休んでいるように見えて、心身共に擦り切れているのだろう。イライラしやすいのも彼女の繊細な気質からくるものなのだろう。
陣治は十和子のその気質をよく理解してる。
仕事で疲れて帰ってきたあとにも、十和子の体を入念にマッサージしてあげているのは、気を張りつめて疲れた体と心をほぐしてあげているのだ。
そんな十和子を、初めて出会った時から危惧しており、気になって仕方がなかった。出会ったことを運命と捉え、本能的に「自分が守らなければならない」と強く思い、大事に大事に守ってきたのだと思います。
十和子の後をつけたり、しょっちゅう電話して確認してくるのは、純粋に十和子が心配だから。
十和子が自分を差し置いて他の男と寝ることなど二の次三の次。むしろそんなことはどうでもいい。
ただただ十和子の安全を守り、十和子の心の安定を脅かすものを恐れているのだ。
しかし陣治はこれから先、十和子とともに生きていったとしても、残念ながら十和子に愛されることは決してなかったのでしょう。十和子が愛せるのは、きっとこれから先も「哀れな男」だけです。
そんな十和子が少しでも幸せに、振り回されずに自分の人生を歩めるようになる可能性があるとしたら、男以外に愛を注ぐことができる相手がいること。つまり十和子が自分自身の子どもを授かることであると陣治は考えたのではないか。
陣治は不妊症であり、生きていても十和子に子どもを授ける役目は果たせない。なにより自分が十和子に愛されることはない。
「生まれ変わり」を信じることで、十和子に子を授けられる。陣治なりに大真面目にそう考えたのだと思います。
十和子の子どもとして生まれることで、十和子に初めて愛され、十和子をこれまでとは違う形で守り続けることができる。
そう信じたのではないか。
そして、自分が死ぬことで十和子の全ての罪も被ることができる。
十和子を守るためだけに生き、十和子を守るためだけに死を選んだ陣治であった。
ラストの2人の出会いからこれまでの全てを回想するシーンは圧巻です。とても美しい映像と音楽が胸を打ちます。
罪を犯したあと、十和子が記憶を失っていることに気づいた風呂場での陣治の安堵の表情には鳥肌が立ちました。陣治の愛を表す、とても素晴らしい演技でした。
陣治という存在に名をつけるならまぎれもない「愛」なのでしょう。十和子は最後までそのことを知らなかった。知らずに愛を注がれ続けていた。そして反対に十和子が愛を注ぎ、十和子に薄っぺらい愛を語ったかつての男たちの存在に名をつけるなら、決して「愛」などではない。彼女はそれに気がつくのが遅すぎた。
そのことを本作品タイトル、「彼女がその名を知らない鳥たち」として表しているのではないかと考えた。
これ以上、観た後に恋人と恋愛観を熱く語ることができる作品はそうそうないように感じます。(強く共感できる人と、一生一ミリも共感できない人とに分かれる作品でしょう)
それにしても原作小説作家の沼田まほかる先生は、その異例の経歴もさることながら、いったいどのような経験を積まれてこのような作品を作れるようになったのか、改めて背景が気になって仕方ないです。
CBさん
コメントありがとうございます!
天気の子のレビューのみ読まれる方多いと思いますが、私は本来新海監督のコアなファンではありませんので^^;
スポットは当たりにくいですが、本来私が純粋に好きだと思っている作品のレビューを読んでいただけたこと、大変嬉しく感じております。