「完璧な読後感」彼女がその名を知らない鳥たち るいこすたさんの映画レビュー(感想・評価)
完璧な読後感
小説は読んでいたが、ずいぶん前のことなので、最後陣治が死ぬが、素晴らしい死に方したってことしか覚えなかった。本読んだし、まあ見なくてもいっかと思ってたんだが、評価高いので見てみた。
いやー良かったなー
個人的にはほぼ完璧だったなー
最後けっこう泣かされたわー
十和子に共感できないとか、色情狂だとかいろいろ言われてるが、ああいう女性けっこうまわりにいると思う。
外見はキレイだが、その実、中身には自信がない。そのため男からの評価が指標だと考えるようにしている女性だ。そりゃ陣治では満足できないだろう。
だけど、どれほど男に求められても、そこには空虚感があり、そのことにうすうす自分でも気づいており、分かっていながら、そこから逃れるかのように、あるいは空虚を埋めるかのように、また男を求める。
その空虚感と罪悪感があるからこそ、水島が自分たちは孤独だといったことに共感し、惚れ込み、まるで現実味のないタクラマカン砂漠旅行を夢見て、ある種自分に信じさせ、そして裏切られたことに対して、あそこまでやった訳だ。
陣治のどんでん返しには、小説を読んでおきながら、また驚かされたわけだが、最後はやっぱりああせざるを得なかったのだと思わされた。
きっと人がいいだけで女性とはまるで縁のない人生だったろう。それが十和子と出会い、笑顔を見るだけで心が弾んだ。
それはまるで現実味のない暮らしだったに違いない。自分にはまるで釣り合わない女性なわけだから。
ところが、その浮わついた暮らしが、あの事件によって本物になった。
彼女の闇を自分が背負い、彼女を守ること。それこそが自分の人生の存在理由だと悟った。
彼女を守れるなら、決して豊かでなくても、充実していなくても、彼女が記憶を喪失し、生き続けられるならそれでいいと。それを続けるためには何でもやる。
ところが、思い出してしまった、思い出さなくていいことを。
彼女が生き続けられるように、彼女を守るために自分ができることはなにか。
陣治が考えたのは、彼女に生きる目的を与えること。それは金などでは作れない、最も本質的な生の喜び、そのことに気づいてもらうことだったと。
そういう心情や背景すらも演技から表現しているのが役者陣だ。本当に素晴らしかった。
竹野内の黒崎にしてもクズではあるが事業に失敗しやむにやまれなかったろうし、国枝にしても過去の罪悪を認知症のような形で忘れており、今は責任能力があるのかも分からない。そういうクズどもにもある種の同情を感じさせる。
誰もがままならない人生をそれでも生き抜かざるを得ない。
そういう点で言えば、陣治は人生の目的を見つけ、その目的を全うしたわけだ。そして、十和子は過去の闇を乗り越え、その目的を陣治に与えてもらった。
そういう意味で、この映画は宗教ですらある。