「万華鏡のような蒼井優の表情に見惚れた」彼女がその名を知らない鳥たち だいきつさんの映画レビュー(感想・評価)
万華鏡のような蒼井優の表情に見惚れた
原作未読。
この映画を観に行こうと思ったのは
主役の二人に惹きつけられたから。
クドカン作品でも大好きな阿部サダヲと
最近乗りに乗ってる蒼井優が出る。
これだけで観に行ったようなもの。
映画の宣伝には
「共感度ゼロ」とか
「クズばっかり出てくる」とか
そんな文字ばかり出ている。
「怒り」や「愚行録」のような
重く救いようのない映画なのかと
そう思って観に行ったら。
これは紛れもなく「ラブストーリー」だと感じた。
少なからず、そう思ってしまった自分は
もしかしたら陣治側の人間なのかもしれない。
とにかく蒼井優が素晴らしい。
まず驚いたのがその関西弁。
関西出身の私からすると
劇中の「エセ関西弁」が
我慢ならない作品が本当に多い。
その点、今作の蒼井優の関西弁は素晴らしかった。
そのまんま、ネイティブだった。
加えてその表情の豊かさ。
クズな同居人に見せるクズな女の表情。
唯一甘えられる存在の姉に見せる素の表情。
クズな浮気相手に見せる甘えた女の表情。
クズなDV元彼に見せる泣き笑いの表情。
全ての蒼井優のシーンが素晴らしかった。
思うに、ここまで「クズ」を
見事に演じるってことは
「いい人」を演じる事より
何倍も難しいのではないか?
その点で言えば阿部サダヲも
負けず劣らずにすごかった。
圧巻だったのがミスリード。
物語前半。
どうしようもない「クズ」だった陣治を
ストーリーが進むにつれて
悲しいほど「共感してしまうクズ」に昇華させた。
散りばめられた伏線の回収も見事だった。
蒼井優と阿部サダヲ。
やっぱりどう考えてもこの二人以外に
十和子と陣治のキャストが思いつかない。
良い意味で驚いたのが松坂桃李。
今まで若手イケメン俳優にありがちな
王道「いい人」を演じることが多かった。
が今作では清々しいほどのクズっぷり(^^;;
これ演技?素が出てんじゃね?
と思わせるほどの怪演だった。
セックスする時に十和子に
「あー」って言わせるシーン。
原作にもあるのかな?
なかなかの変態っぷり(^^;;
それがまたイケメン具合と相反して
よりグズっぷりが際立った。
その点、竹野内豊。
なんかちょっと他の3人に比べると
振り切ったクズっぷりは感じられなかったかな。
加えて、ラストシーンも素晴らしかった。
救いようのないくらい悲しいはずなのに
とても美しかった。
十和子を笑いながら見つめて
仰向けに落ちて行く陣治。
数秒の「間」の後に飛び立つ
名前も知らない「鳥たち」
陣治が身をもって十和子に教えた
その鳥の「名前」を、彼女は知り得たのかな?
十和子が知らなかったその鳥の名は?
「安らぎ」?「幸せ」?
それは十和子しか分からないし
飛び立ってしまった鳥と同じで
もう分からないのかもしれない。
改めて素晴らしい「タイトル」の
原作・作品だと思った。
それをラストカットで
見事に映像化した監督にも脱帽。
気になる監督がまた一人増えた。