サラバ静寂のレビュー・感想・評価
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このクソみたいな世界に音楽をぶち込んでやる!
レイ・ブラッドベリ原作の『華氏451』(1966)のようなディストピア。華氏451では小説のみならず活字というものが存在しなかったが、このサラバ静寂では音楽、映画、小説などが禁止されているという不条理な日本。残念ながら多岐にわたる禁止項目は音楽についてだけしか描かれてないが、音楽が無くなるだけでも閉塞感漂う世界だ。
そして警察権力が絶対的で、取り締まる=処刑。音楽を聴いていただけでも殺されるという恐怖政治が根底にあるのです。そんな日本で、ネジ工場で働くミズトとトキオは何の機械に使われるのかも知らずに黙々と仕事する。鬱憤を晴らすために万引きや空き巣狙いなどを繰り返し、ふとしたことで音楽を見つけてしまう。そして、どこかに「son of a NOISE」という闇ライブが行われていることを知るのだが・・・
権力に対する反骨精神や、イライラさせる世の中に清涼剤をぶちまけるかのような展開も気持ち良いのだが、どうしてもチープな部分が目立ってしまうのが残念。テーマやメッセージはいいのにねぇ・・・音楽に絞った方がわかりやすいし・・・
空虚と静寂とノイズ
音は地球にいる限り存在していて、普段気づかない静寂な時間さえ、音に満ち溢れている。風の音、水の音、クルマの音、呼吸音、鳥の音、そんなことに気づかされる映画でした。
意識していない所に、その音の積み重ねとして音楽があるのだなと気づきました。
暴力描写もありますが、作り手のメッセージの為に作られている気がして、素直に受け止められました。
役者に加え、出演ミュージシャンも多様で、見ごたえのある映画でした。
暴力や犯罪を好む描写に嫌悪感が先立ち、共感出来ませんでした。
先に良かった点です。
・映像の撮り方や構図が綺麗でした。1シーン1シーンが絵のように感じました。
・音や音楽の入り方はとても良く、その点はこだわりを感じました。
・役者の演技も良く、(良くも悪くも)キャラクターがスッと入ってきました。
次に素直な感想と、これから見る方への注意点です。
・男性の自慰行為や性的暴行シーンがあるので、苦手な人は注意です。
・終始、犯罪描写が多いです。
窃盗や暴力、殺人を楽しみながら行うシーンを生々しく幾度となく描写されます。(それによって表現したい意図はわかりますが、かなり人を選ぶ内容です。)
・全体的に登場人物は発言と行動が矛盾していて気になります。(気にし過ぎだとは思います。)
テーマは読み取れますが、個人的には登場人物に極度の嫌悪感しか抱けないため、逆に受け入れ難く感じました。
静寂よサラバ?
音楽に出会うまでの静寂を丹念に描いているので、
出会ったときの感動がしっかり伝わってきた。
それさえ感じさせることが出来れば、この映画は勝ち。
ファーストカットの池に広がる波紋が印象に残る。
静寂→波が立ち→また静寂が訪れる
その中で別の波紋と呼応して新たな波を生み出していく・・・
テーマをよく表した秀逸なカットだった。
ヒカリの白い衣装は良かったのだが、
大事なカットで(衣装的に)お腹が目立ち過ぎて、
一歩引いてしまった。
音楽の破壊力
音楽でも何でも、芸術は破壊的な役割を果たし、日常化した意識を刺激し、既成概念を捨てて、割れ目を生じさせるものだ。現実への異議申し立て、否定から始まる。
そして、芸術を愛することは、その本質に迫ることだ。ロゴス(知性)よりエロス(愛情)という意味では、斎藤工が良いメタファーだったと思う。
ミズトがひとりでやるシーンで、虚無しかない現実がよく伝わるし、レザボア的拷問シーンも、耳を奪われることで、聴きたいのに聞けない苦痛と社会的背景を感じる。
そして、偶然と模倣と興奮と目眩をもって、音楽に出会った二人。実に生命的な感動である。
ところが最後まで、主人公もサノバノイズの大人たちも、打開不能な状況にすっかり埋没してしまっている。
NOを言うことからこそ新しいパラダイムが開けるのに、現実の否定、ビッグブラザーに対してNOを叩き付ける、といった破壊の視点がなかった。
抑圧されている者が、その状況を変えられない、または無力であると思い込むことは、抑圧する者にとっては大変都合が良い。
いくら夢を描いても、大きな声で泣き叫んでも、システムの中でネジたちが騒いでるに過ぎない。
ヘビメタスピリッツを受け継いだ子どもたちに、音楽の本当の破壊力を伝えて欲しかった。
全体的に、監督の音楽の趣味は堪能したが、音楽(芸術、遊戯)の本質の思索がよくわからなかった。
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