「アメリカに”はめられた”男と学ぶ米国近代史。 これぞトム・クルーズの新境地っ!✨」バリー・シール アメリカをはめた男 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカに”はめられた”男と学ぶ米国近代史。 これぞトム・クルーズの新境地っ!✨
1970〜80年代を舞台に、CIAにリクルートされ中米でミッションを実行するも、その裏で麻薬組織の運び屋としても活動していたパイロット、バリー・シールの波乱に満ちた人生を描く、史実を元にしたクライム・コメディ。
主人公バリー・シールを演じるのは『トップガン』『ミッション:インポッシブル』シリーズの、レジェンド俳優トム・クルーズ。
バリーをリクルートしたCIAエージェント、モンティ・”シェイファー”を演じるのは『ハリー・ポッター』シリーズや『アバウト・タイム 愛おしい時間について』のドーナル・グリーソン。
バリーの義弟、JBを演じるのは『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』『アンチヴァイラル』の、名優ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。
まず一言。
この邦題つけた奴映画観てねーだろっ!!💢
誰がどう見ても『アメリカをはめた男』じゃなくて『アメリカにはめられた男』じゃんこれ!!ダグ・リーマン監督やトム・クルーズが知ったら怒るでこんなん…。
本作でトムが演じるのは、実在したパイロットのバリー・シール。トムにしては珍しい、拝金主義の小悪党という役どころである。
注意しておきたいのは、本作は実在の人物をモデルにしているとはいえ、史実とはかなりかけ離れているという点。
作中でバリーは1978年、TWA(トランス・ワールド航空、後にアメリカン航空に吸収合併される)在籍時にCIAに勧誘され偵察任務に従事することになるが、史実では74年の段階でバリーはTWAをクビになっている。
また、バリーがCIAの手先として働いていたという証拠はない。TWAをクビになった後、75年ごろからメデジン・カルテルの運び屋として活動を始めたようだが、その頃は麻薬王パブロ・エスコバルと面識はなかったらしい。
83年ごろ、DEA(麻薬取締局)により逮捕。バリーとカルテルとの繋がりを重要視したDEAは、司法取引としてバリーにスパイとして働くことを提案。ニカラグアの政権を握る共産主義政党サンディニスタとカルテルの繋がりを暴くためにバリーを使い、それがバレちゃってカルテルの怒りを買ったバリーは、結局暗殺されることなる…とまぁ、史実的にはこんな流れのようです。
つまり、CIAとメデジン・カルテルの両方と関係を持って立ち回っていたというのは映画的脚色であり、麻薬の運び屋が仕方なく政府の犬として働いていたというのが実情のようですね。
この映画はバリー・シールという運び屋の生涯を、イラン・コントラ事件(1985〜86年にかけて、アメリカ政府がイランに武器を売って得たお金を、ニカラグアのゲリラ「コントラ」に横流ししていた事件)とうまく絡めて作り上げたフィクションであり、アメリカの歴史に蠢く闇を暴く実録ものではないという点には注意しておかなくてはならないでしょう(まぁ本当にバリーがCIAの手先だった、という可能性もあるんでしょうけど、真実は闇の中🌀)。
映画の内容を鵜呑みにしてはいけないとはいえ、80年代初頭の中米の情勢や、伝説的な麻薬王パブロ・エスコバルがどのようにして勢力を拡大していったのかを学ぶ教材としてはとっても良く出来ていると思う。”無重力ではめた男”描写さえなければ、そのま世界史の授業の教材として使えそう。
教材的な面白さを差し引いても、この映画はなかなかによく出来ているし面白い♪
自分の能力を過信し過ぎた男が、引き際を見失って破滅していく様がコメディ要素たっぷりで描かれている。
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)以来、2度目となるダグ・リーマン監督×トム・クルーズのタッグ作。『オール〜』を観た時にも思ったが、リーマン監督はトムのコメディアンとしての素養を引き出すのがとても上手い。この映画でも、あのトム・クルーズ特有のニヤケ男感を上手く操り、どうしようもないアドレナリン・ジャンキーな小悪党をスクリーンに現出させることに成功しています。
トム・クルーズといえば正統派スターって感じで、あんまり軽薄な金の亡者を演じるなんてイメージはないわけだけど、この映画を観て、実はこういう愛すべきバカキャラをトム以上に上手く演じられる俳優はいないんじゃないかと思った。めっちゃハマっている!
もちろんトムにはイーサン・ハントやマーヴェリック・ミッチェルのようなアクションキャラを演じ続けてほしいけど、サイドラインとしてこういうクズキャラを演じるというのも、役者の幅が広がってありなんじゃないかなぁ。
映画のジャンル上、普段のトムらしい派手派手なアクションを本作で観ることは出来ない。
とはいえ、本作の飛行シーンは基本的には全て実際のものであり、そのスタントの大部分はトム本人がこなしている。”無重力ではめた男”もリアルにやってるらしい(”はめる”ほうじゃなくて”無重力”の方ね)😅
そのスタントの中で特にやばいのが、街中にセスナ機を不時着させるところ。映画鑑賞中は普通に観てたけど、あとでメイキングを見てみてぶっ飛んだ…。トム・クルーズさん、あんたイカれてまっせ…😱
この映画の撮影中、2人のスタントマンが亡くなってしまうという悲劇が起きたらしい。一見派手なアクションのない作品でも、やはり映画撮影というのは命懸けなのだ。
楽しく鑑賞したのだが、突き抜けた面白さという感じではなかったかも。
超トップスターが主演かつ金と欲に塗れた実録犯罪ものという点で、マーティン・スコセッシ監督×レオナルド・ディカプリオ主演『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)とかなり類似しているこの作品。
エンディングにジョージ・ハリスンの「ワー・ワー」が使われていたが、こういう音楽の用い方もなんとなくスコセッシを想起させるし、本作を制作するにあたって『ウルフ〜』をかなり参考にしたのではないだろうか、というのが個人の見解。
そんな先行作品『ウルフ〜』の圧倒的な下品さ/カオスさ/エネルギーと比べてしまうと、この映画はちょっと大人しすぎる。せっかくこの題材を選んだんだから、もっと「金!ドラッグ!SEX!」満載な、人間の業を煮詰めた様を見せて欲しかった。
もし本作をスコセッシが監督していたら、きっととんでもない傑作になっていたことだろう。…まぁそんなこと言ってもどうしようもないんだけどね。
従来のトム・クルーズらしさもあるし、トム・クルーズの新境地という趣きもある本作。トムの主演作の中ではちょっと地味目だけど、面白さは十分!
もっと多くの人に観てもらいたい良作であります👏
邦題ツッコミには激しく同意です!
あと、スコセッシが手掛けていたら…は、私も思っていましたが、ここに共感してもらえる方がいて良かったです。
レビュー非常に勉強になりました!