「パーソナル・ショッパーはイタコである。」パーソナル・ショッパー Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
パーソナル・ショッパーはイタコである。
実にサスペンスフルで、ぐいぐい引き付ける映像。現代的にアレンジされたヒッチコック手法も使われている。一見すると、ひじょうに難解でエンディングも不思議。しかし意味を探って反芻すると、じわじわと面白みが広がってくる、"知的なサイコスリラー"である。
先に表層的な設定を整理する。忙しく活躍するセレブのために服やアクセサリーの買い物を代行する、"パーソナル・ショッパー(=買い物係)"として働くモウリーン。彼女には、数カ月前に亡くなった双子の兄がいた。
兄の死因である先天性の心臓病は、双子ゆえに彼女も患っており、それだけでなく霊を媒介する不思議な能力も、兄と同じく持ち合わせていた。生前の兄との約束は、"どちらか先に死んだほうが、現世にサインを送る"というもので、その約束にモウリーンは縛られている。そこから始まる、霊的な現象にも似た不思議な体験の数々。殺人事件も起きる。
登場人物の会話で分かるのは、"霊的なモノや死後の世界を直接的に見たことはないが、どこかで存在する"とは思っている。フツーの大衆的な観念だ。そして起きる数々の出来事は、実は"気のせい"であったり、"明確な原因の存在する出来事"や、"本人の思い込み"だったりもする。
ホラーやスリラーでありがちな、古い洋館や教会、寂れた墓場ではなく、最新モードのカタマリである一流ブティックや、セレブ感たっぷりの高級マンションなどが露出され、そのコントラストが小気味いい。モウリーンを演じるクリステン・スチュワートはスタイルもよく、ヌードも披露。衣装ではシャネルが全面バックアップしている。
買い物の、商品を"選び"、"購入し"、"所有する"という行動は人間の生理欲求のひとつである。ところがパーソナル・ショッパーは、主人の代わりに"買う"という欲求行動を代行する。これはあたかも霊媒者と似ているではないか。まるでイタコの "口寄せ"のように、死者の世界にいる人物と現世の人間を繋げる役割を、パーソナル・ショッパーと同列視してしまう大胆さ。
また、霊媒者たちの死後の世界との交信も、現代ツールであるMessengerやSkypeを介した通信 ー 別の場所、匿名の相手とのコミュニケーションとさして変わらないと指摘している。実に知的でウィットに富んだ表現である。
霊的な現象の存在を解明するのが、本作のテーマではない。だから主人公がどう解決しようと関係ないわけである。結局のところ、世の中には解決できる問題と解決できないままの問題は両方とも存在する。
"信じるのは自由だけどね。幽霊の正体見たり枯れ尾花"である。本来、スリラーとはこういうもの。受け身でリラックスしたいタイプの人は、最も避けるべき作品である。自分はかなり好きだけどね。
(2017/5/18/TOHOシネマズ新宿/シネスコ/字幕:川又勝利)