「この世が俺色に染まればいい」ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
この世が俺色に染まればいい
マイケル・キートンのここ最近の活躍は目覚ましい。「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」でほとんど自伝とも言えるようなリーガン役を演じ、下手をすれば意味不明な作品になる危うさから救い上げた。
「スポットライト 世紀のスクープ」では、自分自身を含む地域の盲目さに光を当てる編集長を好演。さらに「スパイダーマン/ホーム・カミング」では一転してヴィランを演じ、負け犬の論理を見せつける。
良い人に見える、一方で悪くも見える。そんな極端な印象を与えられるのは、やはり「バードマン」でマイケル・キートンそのものが丸裸にされたところが大きい。すべてを白日のもとに晒して、もう怖いものなど何もない。余計なイメージなどつくところがない。だって、彼はマイケル・キートンだから。
で、今作「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」である。今作彼が演じるのは、マクドナルド「創業者」のレイである。
他人の成功を我が物とする不埒者?いや、そんな可愛いものじゃない。レイは狂信的な拡大主義者だ。世界中に自分の旗を立てて、どんどん自分の「領土」を増やしていく。それが楽しくて、嬉しくて、それさえあれば他に何も要らない。
それが「何か」は問題じゃない。収納デスクでも、ミルクシェイクマシーンでも、何でも良い。
この映画を観て、レイを「金の亡者」だと思っているようでは甘い。金は彼の道具に過ぎない。金があった方が世界を塗り潰すのに効率がいい、それだけだ。
歴史上、何人もの征服者がいたが、今の世界は単純な領土の拡大を許さなくなった。では、企業活動としての「征服」はどうか?
既存の価値観や文化・生活を根本から変えるような「征服」に対して、私たちはあまりにも無関心だ。
レイの事だって、映画の前半は応援していたはずである。彼の成功へ賭ける情熱、その為なら何でも犠牲にする覚悟を観て、胸が熱くなる。
映画の前半と後半で変化していくレイへの感情。それを表現できるのは、やはり何色にも染まらないマイケル・キートンあってこそだ。