「リンゴの時点で涙」グレイテスト・ショーマン REXさんの映画レビュー(感想・評価)
リンゴの時点で涙
告白するとバーナム少年に差し出された林檎の場面で既に、一気に涙のコップが満杯になって溢れそうになってしまった。
表面張力で辛うじて保っていた涙は、何度かのピークを経て「ディス・イズ・ミー」で一気に決壊。
人の悪意ある視線は凶器になる。それをはねのけ、恥じることはないと前に進む勇気に感動した。
いじめじゃないにしろ、大勢の前で恥をかかされたことのある人はわかると思う。恥ずかしさとやるせなさの上に降りかかる、憐れみ。憐れみは善意のようでいて、人を卑下させる。自分が矮小で無価値なものになった気持ちにさせられる。
対等に扱うことが差別ではないことだと思うのだが、人間である限り、完全に心の中の差別を無くすのは難しい。 でも、差別が大手を振って正義面すると、暴力が正当化され暴走してしまう。
偽善的であろうと、皆が差別を露わにするのは恥だと思う倫理観を持つ努力はしなくてはいけない。
誰だっていつか、マイノリティーの立場に立たされる日がやってくるかもしれないのだから。
話は王道中の王道。 貧しい男が成功を夢見て、成功を手にした後に自分を過信しすぎて破滅。そしてなぜ成功を手に入れたかったのか、という原点に立ち返る。
わかりやすい物語を、補って余りある音楽の素晴らしさ。
編集も素晴らしく、流れるようにどんどん話が進んでいく。特に前半部分のバーナム少年とチャリティ少女の話の運び方は見事だった。(チャリティとバーナムを繋いだ思いを表すためのガラスが、バーナムとリンドで使われたときは淋しかった!)
フェイクと揶揄された面々が、本物のタレントに出会ったとき。 その輝きに気圧されながらも、私たちにも私たちなりの生きる場所で輝く権利はあると歌い上げた「ディス・イズ・ミー」。
誰しもがメインストリートで生きられる訳じゃない。メインストリートじゃなくても幸せになっていいんじゃないの、と。 歴史上の見せ物小屋こそ差別の象徴だとか、バーナムを善人に仕立て上げたことへの違和感や批判もあると思う。 しかし史実のバーナムは取りあえず脇に置き、今この真っ直ぐなメッセージを素直に受け取り、歌の持つパワーに身を委ねたいと思った。
ほんの少し物足りなかったことと言えば、せっかく口説き雇ったカーライルの才能を示す描写が無かったこと。白人と黒人カップルが受ける偏見を表すための役割だったのだとは思うが、彼の力でサーカスがブラッシュアップされていく風景を見たかった。そこまで求めるのは、欲張りだろうか。