グレイテスト・ショーマン : 映画評論・批評
2018年2月6日更新
2018年2月16日よりTOHOシネマズ新宿ほかにてロードショー
音楽が持つパワーは無敵!ポップで心和む最新ミュージカル映画
ミュージカル映画は音楽次第で古いものを新しくリノベートすることができる。つくづく音楽が持つパワーは無敵と痛感させられるのが、本作「グレイテスト・ショーマン」だ。19世紀半ばのアメリカで、人と違うルックスを持つ人間ばかりを集めた見世物ショーで大成功を収めた実在の興行師、P・T・バーナムの成功物語は、衣装やセットはもろ19世紀でも、代表的なミュージカルシーケンスはヒップホップ。8ビート、16ビートで刻まれるリズムに合わせて、バーナム役のヒュー・ジャックマン以下、メインのパフォーマーたちがキレキレのダンスを披露する。その古くて新しい感覚が、当初は戸惑う観客をいつしか不思議な幸福感で満たし始めるのだ。
今年のアカデミー主題歌賞受賞が期待されるメインテーマ“THIS IS ME”を始め、全9曲を書き下ろしたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールの作詞作曲コンビが、前作「ラ・ラ・ランド」と同じくまたも音楽で時代を超越。それらポップな曲に連動して演じられる、360度どの位置からも歌と踊りと空中ブランコが楽しめる立体パフォーマンスは、現代最高の総合芸術“シルク・ドゥ・ソレイユ”の原型か?「グレイテスト」という謳い文句はあながちホラでもない気がする。
実物のバーナムは、興行師になる前は事業に失敗。その後、創刊した新聞で取り上げた記事が名誉毀損訴訟に発展し、訴追を受けて収監されたこともある。やはりホラ男、山師と呼ばれても仕方がない人物だった。そもそも、見た目が人と違う人間を見世物にすることが芸術と呼べるのかという疑問はある。しかし映画では、バーナムの純粋に人々を楽しませたいと願う無垢な情熱が、個性的なパフォーマーたちを劣等感から解放していくプロセスを、ストレートに抽出して行く。
そこに嫌味がないのは、一重に、ヒュー・ジャックマンが放つ“いい人オーラ”のせい。今も賛否が分かれる興行界のレジェンドを理解するため、関連の書籍を36冊読み漁り、演技の手助けにしたというジャックマン。そんな彼の情熱が役柄にも乗り移って、作品はポップで心和む最新ミュージカルとして完成したという次第。ここ数年は役作りで体も顔も過剰にマッチョ化して、まるで別人のようだったザック・エフロンも、ジャックマンにつられて古巣のミュージカルへと帰還して、何だか生き生きと楽しそうではないか!?
(清藤秀人)