「スパイという売春婦に身を落とされた女性の復讐劇」レッド・スパロー REXさんの映画レビュー(感想・評価)
スパイという売春婦に身を落とされた女性の復讐劇
ジョン・ル・カレ風の渋さがある。
スリムな女性が屈強な男たちをバタバタ倒す荒唐無稽なスパイ映画ではない。
実際女性がスパイ活動に従事する場合、男性に対して腕力でどうのこうのできるわけがないので、この映画のように先を読む力、物事に動じない胆力、そして嫌な相手の誘いも受けられる自己犠牲が求められるのだろう。
羞恥心の排除を徹底的に行わせる訓練は、もう人権無視の「おそロシア」というしかない。冷徹な教員役に人を射抜くような眼差しを持つシャーロット・ランプリング。
原作者は33年CIAで働いていた人物というから、モデルとなるような人物に会ったのだろうか。
実際にあったことなのかはわからないが、頭脳明晰で美人の女性が積極的にハニートラップ要員に志願する確率は低いだろうから、見込みのある美人をスパイという名の売春婦に貶めればいいという考えは、いかにもロシアのやりそうなことで説得力がある。
ドミニカがCIA局員を使って、どうやって現状脱却するかがみどころ。ロシア側の内通者「モグラ」を守るCIAと、モグラを探るロシア、その手先に選ばれたドミニカ。駆け出しスパイのドミニカは、CIAのネイトにプールにいたのも金髪にしたのも身元もばれちゃって、すっかり先を越されていたけれど、それを逆手に取ってネイトに助けを求める。
互いに信頼できるのか出来ないのか、腹を探りながらの駆け引きが醍醐味だが、二重スパイのように裏切りに裏切りを重ねる何でも有りの展開はなく、主人公の行動に筋が通っていて良かった。
最後の最後、してやったりの意趣返し。
結局、叔父はどこかでドミニカに惚れてたんでしょうね。自分の右腕に仕立て上げたかったのか。ドミニカの裏切りを疑い、えげつなく拷問したこともある割には甘さが出た(関係ないが叔父役の俳優がプーチンそっくり)。
多少、アメリカ=善/ロシア=悪という構図や、ロシア人同士の会話も英語でされていたのが鼻白むこともなくもないが、米国人向けの映画だからしょうがないか。
ラスト、電話口で流れる「グリーグ」。二人がその後肌を重ねたかどうかはわからないが、粋な演出である。