「対比で味わうとおいしい2017年版」オリエント急行殺人事件 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
対比で味わうとおいしい2017年版
ミステリは苦手ですが、クリスティは若い頃少々たしなみまして、割と好きです。
が、ミスマープルをメインに愛読し、ポワロは古いドラマなどでしか知りません。
2015年正月の三谷版オリエント急行を見ているので、オリエント急行殺人事件のあらすじは知っている状態で見ました。1974年版は見てません。
豪華俳優、きらびやかで荘厳な美術・背景と見所満載ではあります。
が、ラチェットがカセッティであることの発覚がすげーぼんやり&駆け足でわかりにくい、とか、
ラチェットの部屋に残ったこげたメモをもう一度焼いて書かれた文字を読み取るときの、
浮き上がった文字がよく見えず、それでアームストロング家の不幸とカセッティが初見の人には読み取れねえよとか
思いました。
あと、3号室は2等車で、とか、誰がどこの部屋にいてとかっていう相関も、この映画だけでは読み取れないわーと思いました。
三谷版は2夜4-5時間位の尺だったので、その辺の書き込みがしっかりあって、よく分かったものです。
とはいえ楽しめました。
久しぶりにミシェルファイファーの活躍を拝めたし歌も歌ってくれたし、ジュディディンチの新作は本当にありがたいと思うし、
殆ど喋らないけど佇まいの美しいセルゲイポルーニンも見られたし。
あとは、人種ネタが色々入っていて興味深かったです。
アメリカへの複雑なイギリス人の劣等感・優越感。ドイツ・イタリア・スペイン・フランス等の隣人感情の微妙なところ、
後は黒人差別ね。多分1920年代当たりの話なんだと思うので、その時代で黒人で医師って言うのは、そら色々あったよねとか、想像できて面白かったです。
あとユダヤ文化ね。これは知ってないとちょっと面白みが減るかなっておもいました。
謎解き場面でハバード婦人が、いきなり金髪の鬘を外したでしょう。あれは、ユダヤ人の既婚女性は地毛を人に見せないという文化の表れなんですよ。
今ではそうしている人は珍しいのかもしれませんが、この頃はきっと多かったんでしょうね。なので、地毛を見せた=ユダヤ人であることを認めたという事でもあります。ヨーロッパからアメリカにたくさん移住した経緯とかも頭にあるとより面白いかと思います。
一番、やっぱ引っかかるのはケネスブラナーがポワロなんだけどポワロに見えないって所です。
私のイメージはデイビット・スーシェさんなんですよ。
黒髪、丸顔、黒いマスタッシュに、こゆーい二重まぶた。黒白のコントラストが効いた濃ゆさ。あれが足りんのですわケネスのポワロには。
せめてマスタッシュの形をもっと細くてしゅっとしたのに寄せてくれたら・・・いやいやみなまで言うまいという感じです。
あと、どっかにはポワロの人間的成長を見せたと書かれていたけれども、
善人と悪人しかこの世にはいないと言っていたポワロが13名の容疑者と接して善悪の二元論を曲げた描写ね。
50代くらいとして書かれているポワロが、その年齢までそんな単純で愚かな二元論を掲げていてよく名探偵になれたねと私はあきれますね。
なので、ポワロはあんまりいいと思いませんでした。
見てよかったし、続編があればきっと見ますけども。ナイルに死すは読むか見るかしておかないとついていけないでしょうね。
自分メモとして、三谷版との差異を少々。
笹野高志演じる医師がケネス版映画にはおらず、変わりに沢村一樹演じる元軍人の役が、ケネス版では元軍人の黒人医師になったということです。
また、三谷版ではかわいいかわいい池松壮亮が演じた自殺したメイドの恋人が、ウィレムデフォー演じたレイシストの教授、です。
ブークが三谷版での高橋克実です。
迫力が全然違いますが、八木亜希子とペネロペクルスが同じ人を演じたのです。あらおもしろい。
そういう見方があってる映画な気がします。