「ミシェル・ファイファーへの愛を感じる作品」オリエント急行殺人事件 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ミシェル・ファイファーへの愛を感じる作品
かの有名な「オリエント急行殺人事件」のリメイク・・・というよりも、見終わってまず思ったのは、兎にも角にもミシェル・ファイファーへの愛を感じる映画だったな、ということ。
ケネス・ブラナーとファイファーとの交友についてはよく詳しくないが(接点があるともないとも聞いたことがない)、ブラナーがファイファーにオスカーを受賞させるために一肌脱いだ、と思われても仕方ないくらいミシェル・ファイファーを強くフィーチャーした作品になっている。個人的にミシェル・ファイファーが大好きで、かつて「恋のゆくえ~ファビュラス・ベイカー・ボーイズ~」でオスカーを逃して以降、現在まで結局無冠のままで来ている名女優にオスカー像が渡る日が来ないか・・・と願っている私なので、この作品は俗にいう「俺得」というやつ。エンディング・ロールではミシェル・ファイファーが久しぶりにその「恋のゆくえ」でも披露していた歌声を聞かせていて、主題歌が流れ出した瞬間に「あっ!この声はミシェルだ!」と思い体が固まってしまったくらいだった。未だに「恋のゆくえ」のサントラを聴き続けている私にとって、ミシェルの声を聴き分けるくらい容易いこと。28年経過して、多少声が変わっても、語尾の発音の仕方ですぐにミシェルの歌声だと分かりました。寧ろ、かつての低音を活かしたアルトボイスからファルセットを活かした歌唱に変わっていて、これもまた素敵。なおかつ、(「ヘアスプレー」でもミュージカルで歌声を披露していたが)やっぱり彼女の声はピアノとの相性がとてもいいのだということを再確認する一曲でもあったので、ぜひともエンドロールの主題歌まで聴いてもらいたい。しかも作詞はブラナーが手がけているというあたり、やっぱりブラナーはミシェルにオスカーを獲らせたかったんじゃないかな・・・?と結構マジメに思ってしまいたくなる。しかし、イマイチこの作品でのミシェル・ファイファーのオスカーBUZZが高まっていないのが残念。文句なしにこの映画のファイファーは素晴らしかったし一際輝いていたと思うのだけれど、やっぱりこのままオスカーは名誉賞送りなのでしょうか・・・?ファンとしてはちょっぴり残念な気持ち。でもまだ可能性は捨ててません。
内容としては、そもそもこの作品はアガサ・クリスティーの原作が素晴らしく、オリジナル映画にしても元々の基盤がしっかりしているので、よほどのことでもない限りはうまくできそうなもの。ましてや近年「シンデレラ」の現代版映画化を成功させたブラナーの監督作だけに不安材料などはなかったし、作品を観てもやっぱり安定して面白い作品だったので安心して楽しめた。アガサ・クリスティーの原作を冒すことなく、同時に1974年の映画版との差別化をしっかり測り、2017年版としてのオリジナリティーをきっちり打ち出しているところもとても良かったと思った。
ケネス・ブラナーはここにきて(内面的に)随分丸くなったという印象を受ける。かつてはシェークスピア専門俳優みたいな感じで、自身の監督作もシェークスピア作品ばかりという、なんだかお堅いというか気難しい印象が強かったけれど、ここ最近に来て彼の監督作品を観ると、「探偵スルース」「シンデレラ」「オリエント急行殺人事件」と過去の名作映画へのリスペクトをしつつもそれらを現代的に換骨奪胎して行く手腕や、「マイティ・ソー」「エージェント:ライアン」といった娯楽大作も手掛けたりする幅広さを見ると、シェークスピアに固執していた頃のお堅さは見当たらず、寧ろとても柔軟で応変な印象を受けるし、そこにとても好感を抱く。この映画も自身の監督作品で自身が主演をしながらも、自己主張の強い暑苦しさは全く感じず(それよりミシェル・ファイファーへの愛を感じたくらいだったのだから)、とても柔軟に作品を指揮している印象を受けた。「シンデレラ」も「オリエント急行殺人事件」も、個人的にとてもフィットする作品だったので、今後ブラナーの監督作品はご贔屓にしたい気持ちにさえなったほどだったけれど、そろそろ原作のないオリジナル作品を手がけてもいいんじゃないの?という気もしないではないか。