「「前例」となることを恐れない人々」ドリーム REXさんの映画レビュー(感想・評価)
「前例」となることを恐れない人々
人種差別というヘヴィな状況をコミカルに風刺し、宇宙開発競争で大きく貢献した黒人女性たちの功績を知らしめた爽やかな名作。原題通りまさに「隠された人物たち」の活躍に、世には知らないことがまだまだたくさんあるのだと、素直に感動。
黒人差別だけでなく女性差別の垣根をも、能力と努力で少しずつ壊していく主人公たち。
誰もなしえなかった「前例になるために」、暴力や涙で訴えるのではなく、周囲が瞠目するような才能によって、正々堂々と道を切り開いていく様に清々しさを感じる。
バスや図書館、学校といった全ての公共機関で白黒分けられていた時代。黒人が読みたい本を借りたくても「トラブルを起こさないで」と言われる社会。
本当はNASAでは人種差別は撤廃ムードだったらしいですが、そこはこの時代のムードをわかりやすくするための演出。
白人と非白人に分けられたトイレやコーヒーポットなどで、非効率さを強調している。
だからこそ、部長のアル・ハリスンや宇宙飛行士のジョン・グレンなど、命を預かり命を懸ける人達が肌の色で判断せず、本質を捉える心を持っていることに感動するのだ。
たとえ彼らが積極的な差別撤廃主義者でなくても、「合理的で理性的」な判断は「差別による弊害」と相反するので、結果的に「差別することやそれに費やす時間がいかに時間の無駄で愚かか」ということにもつながってくる。
しかし差別をしている側に属する者は、差別していることにすら気がつかない。ハリスンでさえも、キャサリンが40分もトイレに行く理由に想像がつかない場面では、理不尽なことに声を上げる重要性をとっくと感じた。
身近な例だと、腹痛を訴える女性に対し、男性が「生理かも?」と思い至らないことに似ている。
無意識の差別とは、差別が日常であることで順化してしまうこと、自分が属する社会から爪弾きになることへの恐れで、差別を見て見ぬふりをすることなのだと思う。この時代の白人の多くも、黒人そのものを憎み恐れているわけではなく、自分の常識や日常に波風が立つことが許せないだけのように見える。
主役3人のウイットに富んだ掛け合い、そしてすっと自然に染み入る名台詞の数々にも注目。