「是枝監督さんの世界観」三度目の殺人 tennminさんの映画レビュー(感想・評価)
是枝監督さんの世界観
この作品は、ある殺人事件があり、法廷で裁判が行われるという、最近では日常的とも思えるような刑事裁判がテーマです。
一つの事件の真相を解明することは、裁判に関わる法曹界のそれぞれの在り様で人が人を裁くと云うことであり、判決の一つ「死刑」それは言い換えれば殺人とも言える訳です。
裁判員裁判が現実に行われており、もし自分が裁判員に指名されたらどうするかと云うことを考えると、登場人物の台詞の中から思い起こされ、普段何気なく遣り過ごしてきてしまったことが当事者として起こり得ることもあるかと、怖いように思えてきます。
犯人と思われる、役所さん演じる三隅に翻弄される福山さんが演じる弁護士は、観ている私達の身代わりの姿でもあり、監督さんは、他人事ではなく自分自身が拘わることも有り得る事への思慮の喚起を促すため、接見の度に被告人の態度を変化させる手立てを採り、そして敢えて最終弁論を言わせる場面を作らなかったのではないでしょうか。
恐らく、監督さんの答えは出ているけれども、台詞から読み解いて貰うという演出手腕で、観劇者一人一人に判断を委ねることが、この「三度目の殺人」と云うタイトルにした所以ではないかと、私は今のところ考えています。
映像と音楽、そして出演者の方々の存在感、演技力には感心させられ、美しく素敵な役者さんの姿に魅せられました。
現在、難病を患っている旦那さんと観賞しました。
時間的に耐えられるか心配もあり、寝ているかもと横目で見たらしっかりと画面を直視していました。 本人は、「真剣に考えながら観たので、とても面白かった」と 。 考えることの刺激によるのか、ドーパミンの働きが良くなったようで、近いうちにまた観に行こうと自分から言い出し、福山の歌が聴きたくなったと言うのには笑ってしまいました。
おかげさまでその日は映画談議が弾み嬉しかったです。
ハッピーエンド、又は悲劇に終わる「起承転結」のはっきりした作品を楽しむことを一つの要因とするなら、この作品の終結のあり方の意図を汲み取り、考えあぐね、または意見交換をすることも映画の醍醐味を愉しむ一つではないかと思えています。
レビューの中には、つまらなかった。 もやもやした気持ちになり意味が解らない。 との意見もあります。
恵まれた環境で幸せに暮らして来られたのかなと思えたり、出自などの違いでも受け止め方は違うのだなと云うことを感じ、読まさせていただくのも参考になりました。