「清々しいほどの愛と固執」ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ 猫シャチさんの映画レビュー(感想・評価)
清々しいほどの愛と固執
デザイナーであり建築家としても高く評価されたアイリーン・グレイ。彼女が恋人のジャン・バドヴィッチと共に住むため、彼にプレゼントした海辺の邸宅《E1027》に、同じく建築家として名高いル・コルビュジエが惚れ込んだうえ、固執しまくるお話です。
見る前はアイリーンとコルビュジエの関係性についてドラマが語られるのかと思っていましたが、アイリーンの目線は仕事とジャンに専ら注がれており、コルビュジエの完全な横恋慕になっています。《E1027》に壁画を書いたり、裏に自分の建築物を建てたり、本来なら嫌悪感すら感じる所業だと思うのですが、アイリーン本人ではなく《E1027》という建築物に対しての固執であること、コルビュジエ役のヴァンサン・ペレーズの飄々とした独白に味がある事などから、彼をあまり憎めないフィルムに仕上がっていました。アイリーン・グレイを演じたオーラ・ブラディも眼で語るお芝居が素晴らしく、台詞以上に多くのイマジネーションを想起させます。彼女が度々見せる、得も言われぬ表情の数々が、天才と言われつつも、必ずしもアイリーンの人生は幸福なものでは無かったのかも・・という印象を抱かせ、色々と考えさせられました。
芸術家同士の物語という事で、あまり前衛的に仕上がっていたら楽しめないかも・・と思っていましたが、杞憂でした。淡々とした語り口のためドラマティックではありませんが、芸術家としての模索と、他者への愛と、嫉妬と、固執と、諦念をバランス良く描いています。コルビュジエだけではなく、アイリーンとジャン・バドヴィッチの関係性にもちゃんと尺を取っていたのも良かったですね。
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