ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラのレビュー・感想・評価
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気高い女性と、ダメ男たち
その名を抹消されかけた、モダニズムデザインの先駆けの女性と、その才能に嫉妬して奇行に走る不甲斐ない男性たちの話。
アイリーン・グレイが、五黄土星の寅の時点で超強い。
月命星も五黄なので、傾斜も五黄!
裏も表も幼少期も、一貫して自分を貫いていく強さがあったのだろう。
そこがコルビュジェのプライドをより傷つけていそう。
戦火に追われる時も、バドヴィッチの元を去るときも、コルビュジェの仕打ちを目にした時も、深い悲しみを抑えながら、凛としていたに違いない。
コルビュジェも本命星が五黄土星。亥年だから周りが見えなくなるし、傾斜が六白金星なので支配的・権威的というのが強く出てしまったのかもしれない。
すげー、めちゃいい、くやしい、汚したい、手に入れたい、みたいな。
阿部定事件を思い出した。
センスあるお姉さまに、自信満々の若造が打ちのめされた話。
デビュー前の小田和正もオフコースで自信満々で出場したコンテストで、赤い鳥の山本潤子に完敗して自信喪失した話をしてました。しかもその時に6位で格下だと思ってたチューリップにもデビューで先を越されたという。
ちなみに、小田和正さんも建築科出身で、藤森照信さんと同級です。
愛と理論の結晶
コルビュジエに挑んだ建築でもあり愛する人への贈り物。愛と理論とが混ざり合ってできた結晶。
男性優位主義の時代で彼女の名が埋れてしまっていた事は残念でならない。
時代を超えて評価され、彼女の作品として後世に残っていくことが救いだと思う。
才女ゆえに・・
近代建築の世界的巨匠ル・コルビュジエがその才能に嫉妬した天才インテリア・デザイナー、アイリーン・グレイの私生活の側面を映画化。アイリーンの凄さが映画では取り巻きがセリフで賞賛するばかりで実感が湧かない、本作と並行してアリー・マクガキアン監督がドキュメント「アイリーン・グレイ孤高のデザイナー」を作っているので併せて観ると納得がいくかもしれません。
映画の冒頭のオークションは2009年にクリスティで起きた実話である、アイリーン・グレイが1922年に作った椅子(Dragon chair)が1950万ユーロの値をつけた、落札したチェスカ・ヴァロワが値段の感想を聞かれ「欲望の代償ね」と答えた、原題のThe Price of Desireの由来である。
アイリーン・グレイはアイルランドの貴族の出身でパリ万博で日本の漆工芸に魅せられて家具作家への道へ進んだという変わり種、旺盛な研究心の赴くまま木材から金属、セルロイド、織物まであらゆる素材を活かし機能性と美学に優れた家具を生み出すと同時に建築でも景観と建物、インテリアまで融合させた独自の空間デザイン能力に長けた天才であった。
そんな彼女がお気に入りの南仏カップ・マルタンの海辺に恋人のジャン・バドヴィッチと過ごすための別荘(E1027)を建てたのだがジャンの女癖の悪さに愛想を尽かし2年で去ってしまう。
アイリーンに建築を勧めたのはジャン・バドヴィッチで建築製図を教え込んだのはジャンの友人のル・コルビュジエだったらしい。E1027の完成度があまりにも高く、師の立場だったジャンやル・コルビュジエの自尊心が余程傷ついたのだろう、アイリーンの功績を汚すような情けない行為に走るのだった。ル・コルビュジエ役のバンサン・ペレーズがわざわざカメラ目線で愚痴を言う演出はメアリー・マクガキアン監督の「一緒に不甲斐ない男たちを蔑みましょう」との観客へのメッセージなのだろう。晩年まで正当な評価に恵まれず、才女ゆえの数奇な運命をたどったアイリーン・グレイへのアリー・マクガキアン監督のファンレターのような映画でした。
巨匠の執着
グレイは 家具、インテリア、プロダクトデザインから 建築へと 手を拡げてきたデザイナーである
ヒューマンスケールを熟知しており 家具などは作り直したものもある
(実験 あるいはカイゼンか… 愛の深さか… )
そして トータルで完成度の高い〈E 1027〉を作りあげた
彼女に建築を教えた バドウィッチが、この開放感あふれる別荘に〈個室〉を主張した意味は 後でわかる
コルビュジエは 彼女とコラボしたかったに違いない… 何故 (二流の)バドウィッチと組むのか?
女性、著作権、所有権… と問題は多々生まれたが、 一時 愛は感じたし、彼に才能が無いからこそ主張も弱く、彼女の思い通りに出来たのではないだろうか
この家に〈壁画〉を描くように勧めたのも彼で、そのセンス、感性が理解出来ない
それに乗ったコルビュジエも どうしたのか?
(当時 壁画が流行していた)
大戦時に この家を占領したドイツ兵が〈壁画〉を撃ってしまったのも、その違和感が気持ち悪かったからだろう
また、オナシスがちゃんと理解していたのが 興味深かった
グレイが 裕福で、芸術家肌で 繊細なのも
バドウィッチと〈E 1027〉を潔く捨てて、出て行ってしまう要因になり、問題をややこしくした
そして後世で 二人の男の人間性を 浮かび上がらせてしまった (笑)
〈神が細部に宿った〉この別荘に対するコルビュジエの執着は 理解は出来る
彼の心のうちは判らないが、政治、マスメディア活用が巧みなことから 疑惑も感じられる
そして その執着が グレイの家具の値段 (評価) をべらぼうなものにしてしまう《運命の不思議》
グレイを演じる オーラ・ブレイディの いつも問いかけている様な瞳が、美しかった
邦題に惑わされないように
作品の焦点が今ひとつ掴みにくかったです。
建築や家具など、もっときれいな映像を期待していたのですが、映像からは魅力を感じませんでした。
とはいえ内情や建築議論など、興味を掻き立てる部分もあり、素人建築ファンとしては観ておいて良かったと思います。
ヒューマンスケールをワルツで計っているようなシーンは、なかなか面白かったです。
クソ野郎
ル・コルビュジエもジャン・バドウィッチもクソ野郎だと思いました。
最悪の壁画。完全に蛇足。
コルビュジエも建築家なら、
E.1027があのままで素晴らしい状態だと分かってたはず。
あの壁画のせいで、まさに「精神が汚された」と思います。
私もデザイナーですが、例え嫉妬したとしても素晴らしい作品ならそのままにしておきたいです。
そうしなかったコルビュジエが腹立たしく、素晴らしい建築家のくせにセンスが無いと思いました。
ただ、あの家に描かれていなければ、あの壁画はいいものであったかもしれないと思います。
コルビュジエが「相続が決まるまで家の管理は任せてくれ」と、のうのうと宣ったシーンの、
「お前が言うな!お前にだけは任せたくねーわ!!頼んでもねーのにお前が勝手に住み着いてるだけだろーが!!」とでも言いたげなアイリーンの目が忘れられません。
そりゃあ、話の通じる女友達と過ごしたくもなります。
男の嫌な部分がよく出ている映画だと思いました。
観終わった後はピンと来ませんでしたが、E1027の解説を読んで理解...
観終わった後はピンと来ませんでしたが、E1027の解説を読んで理解しました。
予備知識有りで観た方がいい作品ですね。
それにしてもフランス人(フランスじゃない人も多いみたいですが)の行動は日本人には理解し難い物が有りますね。
物作りの創造者と使用者の確執から観てみました。
観客6名と言う静かな鑑賞でした。
エネルギッシュな男どもと静謐な女性との確執かな。
五原則で作られる彼の作品にはどうしても越えられないものがある。
それは設計者としての心だろうか?
彼が提唱した五原則をみごとに具現化し、そしてそれに余りある作品に触れたとき使用者であり続けることが創造者として当然の傲慢な行使だ。
それをしたくなる作品とは、設計者が愛する人にプレゼントして、二人で愛を育む愛の館ということではないだろうか。
そう彼の作品は無機質なのだ。
しかし、彼女が設計施工した館は、彼が提唱した設計理念の完璧な完成品なのだ。
そんな館に自己を潜めたときの安堵感、そんな館に何物にも変えられなく思わず自己の表現として落書きを残したくなるコルビジェ。
テロップではその館の浜辺で亡くなったそうだ。
清々しいほどの愛と固執
デザイナーであり建築家としても高く評価されたアイリーン・グレイ。彼女が恋人のジャン・バドヴィッチと共に住むため、彼にプレゼントした海辺の邸宅《E1027》に、同じく建築家として名高いル・コルビュジエが惚れ込んだうえ、固執しまくるお話です。
見る前はアイリーンとコルビュジエの関係性についてドラマが語られるのかと思っていましたが、アイリーンの目線は仕事とジャンに専ら注がれており、コルビュジエの完全な横恋慕になっています。《E1027》に壁画を書いたり、裏に自分の建築物を建てたり、本来なら嫌悪感すら感じる所業だと思うのですが、アイリーン本人ではなく《E1027》という建築物に対しての固執であること、コルビュジエ役のヴァンサン・ペレーズの飄々とした独白に味がある事などから、彼をあまり憎めないフィルムに仕上がっていました。アイリーン・グレイを演じたオーラ・ブラディも眼で語るお芝居が素晴らしく、台詞以上に多くのイマジネーションを想起させます。彼女が度々見せる、得も言われぬ表情の数々が、天才と言われつつも、必ずしもアイリーンの人生は幸福なものでは無かったのかも・・という印象を抱かせ、色々と考えさせられました。
芸術家同士の物語という事で、あまり前衛的に仕上がっていたら楽しめないかも・・と思っていましたが、杞憂でした。淡々とした語り口のためドラマティックではありませんが、芸術家としての模索と、他者への愛と、嫉妬と、固執と、諦念をバランス良く描いています。コルビュジエだけではなく、アイリーンとジャン・バドヴィッチの関係性にもちゃんと尺を取っていたのも良かったですね。
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