「寓意性と普遍性に満ちた少年の物語」怪物はささやく りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
寓意性と普遍性に満ちた少年の物語
イギリスの田舎町、墓地が見える一軒家で暮らす少年コナー(ルイス・マクドゥーガル)。
彼は、毎夜、12時7分になると「怪物」の姿をみる。
それははじめ夢の中での出来事だったが、次第に「怪物」は現実にも現れるようになる。
そして、怪物は「3つの話を聞いて、4つ目にコナー自身の物語を話せ」と告げる・・・
というところから始まる物語で、コナーには重病を患った母親(フェリシティ・ジョーンズ)がおり、娘の看病とコナーの面倒を見るために離れて暮らしていた祖母(シガーニー・ウィーヴァー)がコナーの元へやってくる。
こういう設定なので、怪物はコナー少年の心の内の象徴で、気づかなければならない事柄や乗り越えなければならない事柄を気づかせる役割を果たしていることは早々にわかる。
そして、それらの事柄も、重病の母親にかかわることであろうと想像はつくし、必ず現れる時間の意味も想像はつく。
さらに、怪物の声は、すでに亡くなっている祖父(リーアム・ニーソン、写真でチラリと写る)の声だ。
なので、おおよそ想像が展開は想像がつくのだが、物語の語り口、映像表現が素晴らしく、興味は惹かれる。
特に、目を見張るのが、怪物が語る物語。
3つのうち、はじめの2つはアニメーションで語られ、黒を主体にした水彩画のような感触で、素晴らしい。
また、語られる内容も、通り一遍の価値観を押し付けるものではなく、善悪や良否などは曖昧で多義的であるなど、寓意性も高い。
そして、この寓意性の高い普遍的な物語は、コナー少年が語る(語らねばならない)4つ目の物語にリンクしていく。
ということで、絶賛したいところなのだが、3つ目の物語の表現がアニメーションを捨て、よりコナー少年自身に近づきすぎているあたりは、少しがっかりした。
なお、12時7分の秘密が明かされた後のエピソード、はじめは蛇足かと思えたが、怪物が語った物語の秘密が最後の最後に明かされ、思わず落涙させられてしまいました。
演技陣では、母親役のフェリシティ・ジョーンズが意外と良く、これまで彼女を良いと思ったことがなかったので、、驚かされました。