「二人が愛を育む中で男は愛を知り、女は自分のアートを世に示す。」しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス 葵須さんの映画レビュー(感想・評価)
二人が愛を育む中で男は愛を知り、女は自分のアートを世に示す。
人の愛し方を知らない頑固で孤独な男エベレットと、家族に捨てられた体にリウマチの障害を持つ女モード・ルイスが、家政婦という雇われの形からではあるが徐々に絆を深めていく。その中でモード・ルイスは二人で生活する小さな幸せを絵画という形に昇華させていく物語。
一言で言ってよい作品だった。自分はどうも『孤独で頑固な男』キャラが好きだし、アートが関わる作品には自分もアートに興味があるためどうしても手に取りたくなる。01:28あたりのモード・ルイスの自分の創作姿勢の述懐(描きたいように描くだけ、鉛筆が目の前にあれば満足、深くは望まない)も勉強になる。
妻と接する中で徐々にユーモラスさを持っていくエヴェレット、夫との慎ましい生活の中で自分の中から素敵な世界を表現する力を発揮しそれが世間に広まっていく過程が醍醐味。この作品のように人の感情や『人が変わっていく』様子が丁寧に描かれた作品はあまりないと思う。
エンタメとしてのこの作品の欠点は、この作品にキャッチーなエンタメ要素が無い事。ドキュメンタリー的に平凡に慎ましく生きた個人の伝記を真摯に伝える作品であるのだから当然な傾向だと思う。どうすればいいかと考えると夫意外ももっと外見の良い役者を揃えて二人と外部の人間の葛藤のやりとりをより劇的なやりとりにして家も最初は汚くとも最後はとてもきれいで豪華な家にしたり最後のザマー感をより充実させたりすればより受けると思うが書いてて虚しくなった。堅実でテーマ性のある作品はどうしても売れないしつまらない部分があるのはしょうがないと思う。それをどうすれば本質に抵触せずに面白くするかが創作をする人間がもつべき肝なのだと思うが。
もう一つは、エヴェレットの今を作る原因の手がかりを何も描写していない事。材料がなかったのかもしれないし、フォーカスをモード・ルイスに絞ったからかもしれないが、どうして彼は頑固で孤独に生きているのだろうと気になった。
その他として、調べてみるとサリー・ホーキンスはシェイプ・オブ・ウォーター(2017)の主演女優だった。しあわせの絵の具が2016年公開なので身体障害の表現によりどうしても少し老けて見えるところがあって少しびっくりした。サリー・ホーキンスの顔立ちについてそれ以外の作品でもなんとなく既視感があるような気がして調べてみるとロッキーのエイドリアンに似てるというのがわかった(個人的感想)。役のあり方も今作と少しにてるかも。