「居場所なき者たちの至福」しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
居場所なき者たちの至福
街の人々に疎まれながら孤独に生きるエベレットと、リューマチを患い常に親類縁者から無能扱いされてきたモードの、不器用な心の通い合いに涙しそうになる場面がいくつもあった。
人間は、自分の暮らしこそがスタンダードを満たしたものだと信じるあまり、自身の線引きから外れる者を蔑む傾向にある。
そうしないと、自分の幸福感が足下から崩れ落ちることが怖いのだ。自己防衛のための攻撃本能なのだろう。
エベレットとモードにも、それぞれの線引きがあり、互いの存在は始めはマイナス要因でしかなかった。
しかし、マイナス×マイナスはプラスなのである。
互いの得手不得手が次第に逆転し、不可侵の領域を決して犯すことなく共存していくさまがユーモアと慈愛たっぷりに描かれる。
エベレットとモードが連れ立って歩くシルエットが印象的な遠景、エベレットが荷車にモードを乗せて草原を走る姿、カナダの小さな街の色とりどりの家並み、美しい岸辺や草原の夕焼けなど、映像のひとつひとつが全てモードが描く作品のようであった。
モードが窓から見る世界の意味を語る場面は、人が重ねる経験の意味を根底から覆してくれる。
モードが世を去った直後のエベレットの姿を演じるイーサン・ホークは、『いまを生きる』の頃のいたいけな青年の脆さと、武骨に生きてきた男の優しさや悲哀があますところなく表現されていて、ここ最近の作品の中でも白眉の名演であった。
『シェイプ・オブ・ウォーター』でオスカーノミニーとなったサリー・ホーキンスは、本当は本作でノミネートされるべきだっただろう。
かつてウェルメイドな小品という言葉があった。本作には、その冠がふさわしい。